理学療法に難渋した肩関節拘縮の一症例
説明
【はじめに】<BR>肩関節拘縮(以下、拘縮)は、いわゆる五十肩のような特発性である一次性と腱板病変由来や外傷後などの二次性に分類される。特発性では保存療法が選択される事が多いが、リハビリテーションに抵抗を示す難治な拘縮例が存在し、長期間日常生活に支障をきたすことも少なくない。今回、難治性拘縮を呈した一症例の理学療法を経験し、機能的観点より原因究明を行い、若干の知見が得られたので報告する。<BR> 【症例紹介】<BR>症例は47歳男性、会社役員(事務職・運搬業も兼ねる)、利き手は右である。平成20年6月頃から、特に誘因なく左肩関節に強い疼痛が発生し、ADLにおいて背臥位での就寝困難・夜間痛の発生、高所へ物を置くなどの動作に制限が生じた。平成20年7月に来院し、拘縮の診断で理学療法(以下、PT)開始となった。また、1年前に右拘縮を既往し、痛みは消失したが肩関節ROM制限は残存している。<BR> 【PT評価及び治療経過】<BR>治療は保存的に実施し、医師によるJoint-Distensionや関節内注射を定期的に実施している。PT開始後約3ヶ月間は、疼痛は徐々に軽減したが症状改善に乏しかった。初診時のPT所見として、1.痛み:強い安静時痛、運動時痛、夜間痛、2.ROM:肩関節屈曲90度・外転60度・外旋10度、体幹・頸部伸展・回旋制限、3.筋力:MMT3~4レベル(腱板・肩甲骨周囲筋群)、4.アライメント:肩甲骨の前傾・winging・挙上位、円背、5.関節包内運動の低下・臼蓋上腕リズムの崩壊などを認めた。炎症期は、物理療法を中心として疼痛軽減を図り、その後肩甲帯を中心とした頸部・体幹のアライメント不良に対するアプローチとして、座位での体幹回旋訓練、臥位での頸部筋群のリラクゼーションを図り、その上で肩甲上腕関節に対し徒手療法や運動療法も併せて治療した。PT開始6ヶ月後にはROM制限は残存するが、安静時痛・夜間痛は消失し、日常動作における使用量、円滑性が向上した。<BR> 【考察】<BR>本症例は強い痛みを有し炎症期が長かった為、著明な拘縮を呈しPTに難渋した症例である。今回、肩甲上腕関節へのアプローチよりも、早期より肩甲帯や頸部・体幹のアライメント不良の修正や、それらに関連する筋機能低下の改善に対してのPTを優先し実施した。その結果、頸部・体幹と上肢の運動連鎖が向上し、疼痛軽減や関節包内運動の獲得に繋がったと考えられる。また本症例では、1年前の反対側の拘縮発生や職業などが背景となり、長期に及んだ炎症期に影響を与えたと推察され、関節包や靱帯の変性・癒着、肩甲下滑液包開口部の閉塞などを最小限に抑えるべく、適切なアプローチ時期の選定が今後の課題として残った。
収録刊行物
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- 関東甲信越ブロック理学療法士学会
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関東甲信越ブロック理学療法士学会 28 (0), 61-61, 2009
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205528758528
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- NII論文ID
- 130006950927
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- ISSN
- 2187123X
- 09169946
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可