遺伝子スクリーニングによる薬毒物感受性決定蛋白質の同定とその作用機構解析

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  • A genome-wide screen for determinants of the sensitivity to drugs and chemicals

抄録

薬毒物に対する感受性には個体差が存在し,遺伝的に感受性の高い人々は比較的少量の薬毒物に曝露されただけで健康に障害が生じると考えられる。しかし,薬毒物感受性に関わる遺伝子はほとんど明らかにされていない。この薬毒物感受性に関わる遺伝子が判明すれば,高感受性グループの特定が可能となるだけではなく,毒性発現の分子メカニズムの解明にも繋がる。我々は,真核生物モデル細胞として遺伝子産物(蛋白質)の多くがヒトなどの哺乳動物と機能的に共通し,かつ,遺伝学的解析が容易な出芽酵母を用いて,薬毒物に対する感受性に影響を与える蛋白質をスクリーニングする方法を確立した。本法は出芽酵母に存在するほぼ全ての蛋白質(約6,000種)をそれぞれ欠損または発現抑制させた酵母株ライブラリーを用いて,薬毒物に対する感受性を高める蛋白質と低下させる蛋白質の両方を同時に精度良く,かつ,網羅的に検索するものである。我々は本スクリーニング法を用いて,様々な薬毒物(アドリアマイシン,亜ヒ酸,メチル水銀,パラコートなど)に対する感受性の決定に関わる蛋白質を多数同定することに成功した。それら蛋白質のほとんどは初めて薬毒物感受性に関与することが明らかになったものであり,本スクリーニング法は薬毒物に対する感受性決定機構の全容解明に大きく貢献出来るものと考えられる。<br>アドリアマイシンに関しては,欠損することで酵母に制がん剤であるアドリアマイシン耐性を与える蛋白質として細胞内小胞輸送経路に関わる因子が13種同定されたが,これらは全てエンドサイトーシス経路の初期過程に関わるものであった。一方,欠損によって酵母にアドリアマイシン高感受性を与える蛋白質の中にAkl1(機能未知のプロテインキナーゼ)が含まれていた。我々はアドリアマイシン感受性決定機構におけるAkl1の機能解析を行い,Akl1がエンドサイトーシス経路の初期過程に関わるSla1/Pan1/End3複合体中の構成蛋白質Pan1のリン酸化を介してその複合体の解離を促し,その結果としてエンドサイトーシス経路の初期過程を抑制することによって,アドリアマイシン毒性を軽減することを初めて明らかにした。Akl1のヒトホモログで,Akl1と同様にエンドサイトーシス活性を抑制する機能をもつAAK1を高発現させたヒト培養細胞もアドリアマイシン耐性を示したことから,酵母細胞のみならずヒト細胞においてもリン酸化を介したエンドサイトーシス経路の制御機構がアドリアマイシン耐性獲得機構において重要な役割を果たしていると考えられる。<br>一方,細胞内小胞輸送経路のうち,小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路の抑制がアドリアマイシン感受性を増強することも明らかとなった。小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路を抑制すると,エンドサイトーシス経路の抑制によるアドリアマイシン耐性獲得作用が減弱することも判明した。これらの事実は,エンドサイトーシス経路の抑制が何らかの蛋白質の小胞体からゴルジ体への輸送を亢進させ,それによってアドリアマイシン毒性を軽減している可能性を示唆している。これまでに,細胞内小胞輸送経路とアドリアマイシン毒性との関係が検討されたことはなく,本知見はアドリアマイシンの新しい毒性発現機構の解明に有用な知見を与えるものと考えられる。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205544833920
  • NII論文ID
    130004676847
  • DOI
    10.14869/toxpt.40.1.0.6003.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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