マウス胚性幹細胞における7,12-ジメチルベンズ(a)アントラセンのDNA損傷が引き起こす未分化状態の破綻

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  • DNA damage and disruption of undifferentiated state in murine embryonic stem cells induced by 7,12-dimethylbenz(a)anthracene

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抄録

【目的】生体内にはわずかに組織幹細胞が存在し,自己複製と分化を繰り返して生体の恒常性を維持している.近年,がん組織においても増殖・分化するがん幹細胞が発見され,その起源の一つとして幹細胞のがん化が挙げられる.本研究では,強力な発がん物質イニシエーターとして知られる7,12-ジメチルベンズ(a)アントラセン(DMBA)がマウス胚性幹(mES)細胞に対して引き起こすDNA損傷や異物代謝酵素誘導,未分化状態への影響を検討した.また,これらの影響の程度をマウス胎児性線維芽細胞(MEF)と比較し,未分化細胞特有の応答について検討した.<br>【方法】使用細胞および薬物処理:mES細胞はD3細胞株,MEFは12.5日齢の胎仔より調製した初代細胞を使用.DMBAまたは3-メチルコラントレン(3-MC)処理(50-500 nM,24 h)によりDNA付加体形成と異物代謝酵素の誘導を確認.DNA損傷:DNA付加体を32P-ポストラベリング法により定量.遺伝子発現Cyp1a1Cyp1b1およびSox2発現をリアルタイムRT-PCR法により相対定量.アルカリフォスファターゼ(ALP)染色:ALP染色によりmES細胞の未分化状態を評価.<br>【結果・考察】DMBA処理により両細胞ともDNA付加体量が増加し,それはMEFにおいて顕著であった.化学物質非存在下により,Cyp1a1発現は両細胞で同程度だが,Cyp1b1はMEFにおいて高発現であった.また,DMBA処理によりSox2発現・ALP染色陽性細胞が減少したことから,mES細胞が分化傾向を示していることが確認された.一方,3-MC処理では,Cyps発現誘導は確認されたが,DNA付加体は検出されず,mES細胞の未分化状態に影響を及ぼさなかった.したがって,未分化状態の破綻にはDNA損傷が寄与していると考えられる.以上の結果から,mES細胞は発がん物質の標的となること,DNA損傷により分化誘導されることが示唆された.この分化誘導は,異常な幹細胞を排除するという幹細胞防御機構の一つであると考えられる.

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