休眠がん抑制遺伝子GADD45γの発現誘導と制がん

DOI
  • 竹田 修三
    広島国際大学 薬学部 環境毒物代謝学研究室

書誌事項

タイトル別名
  • Re-activation of silenced tumor suppressor gene GADD45γ and its possible significance in cancer therapy

抄録

演者は、化学物質 “ケミカル” をツールとして「健康体を障害(がん化)する要因について、その分子機構を解明し、がん化要因の消去法の考案・構築を行う」というビジョンで研究を展開してきた。代表的ながん抑制遺伝子であるp53は、抗がん剤に対する治療感受性に関与することが知られており、p53が「異常」であれば抗がん剤が奏功し難くなる。実際、p53の変異はヒトがん患者の中で最も高頻度に見出される。そこで我々は、p53に依存しない “ケミカル” に注目し、p53のstatusが異なる3種類のがん細胞株(MCF-7細胞: 野生型p53、MDA-MB-231細胞: 変異型p53、およびHL-60細胞: p53の発現を欠損)を用いて、これら3種類の細胞に死滅作用を示す天然物由来成分のスクリーニングを行った。その結果、セスキテルペンラクトンの1つである(–)-xanthatin (オナモミの果実の成分) が見出された。しかし、オナモミ中に含まれる(–)-xanthatin含量は極めて少なく、市販品も存在しないことから、(–)-xanthatinの化学合成系を確立した (Tetrahedron, 66: 8407, 2010)。<br> 本研究では、独自に合成した(–)-xanthatinによるp53非依存的ながん細胞死の誘発機構の解明を目指した。DNAマイクロアレイ解析および種々の生化学的解析により、(–)-xanthatinがGADD45γを選択的に発現誘導することが明らかとなった (Chem. Res. Toxicol., 24: 855, 2011; J. Toxicol. Sci., 38: 547, 2013)。これまでにGADD45γの選択的誘導剤は知られていなかったが、GADD45γは、がん抑制遺伝子(遺伝子変異はまれ)として機能し、制がんの分子標的として注目されている。次に、(–)-xanthatinによるGADD45γの発現誘導機序の解明に着手した。(–)-XanthatinがDNA断片化を伴わない細胞死を誘導すること、さらにはCdc2-cyclin B1の発現低下を来したことから (Chem. Res. Toxicol., 24: 855, 2011)、この細胞死の誘因としてDNAトポイソメラーゼ IIα (Topo IIα)の関与が示唆された。(–)-XanthatinはTopo IIα活性に対し、抗がん剤であるetoposideと同様に強力な阻害作用を示した (Toxicology, 305: 1, 2013; Bio. Pham. Bull., 37: 331, 2014)。Topo IIα阻害はDNAダメージに繋がり、GADD45γはDNA damage-inducible geneでもあることから、本遺伝子が(–)-xanthatinにより誘導されたことは合理的である (Toxicology, 305: 1, 2013; Fundam. Toxicol. Sci., 2: 233, 2015)。しかし、「Topo IIαの阻害活性を有するものであれば、何でもGADD45γ誘導を来すのでは」という疑問が生じる。(–)-Xanthatinは分子中に親電子部位を有し、細胞内レドックスバランスの破綻を来たすことが予想され、持続したROS産生が確認された。さらに、ラジカル捕捉剤により、(–)-xanthatinによるROS生成およびGADD45γの発現が抑制されたことから、GADD45γの誘導におけるROSの関与が示唆された。GADD45γ mRNAの半減期はコントロール群と比較して、(–)-xanthatinにより8倍以上延長した。この安定化は、Topo IIα阻害を示すが、ROS産生能を持たない(–)-xanthatinアナログでは確認されず、また、ROS誘導剤だけではGADD45γの発現を来すには不十分であった。従って、(–)-xanthatin によるGADD45γの発現誘導は、Topo IIα阻害により誘導されたGADD45γが恒常的に産生されるROSにより安定化されることで生起すると推察された。発がん機序に関係する膨大な数の遺伝子や因子が存在するが、制がん戦略の標的としてのがん抑制遺伝子GADD45γの確立を目指して今後さらなる研究を進めていきたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205548527872
  • NII論文ID
    130005261013
  • DOI
    10.14869/toxpt.43.1.0_sy2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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