医薬品の環境リスクと製薬企業トキシコロジストの役割

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タイトル別名
  • Role of pharma company toxicologists in the environmental risk management of pharmaceuticals

抄録

医薬品による河川等水環境の汚染が新たな社会的・毒性学的課題として関心を集め、国際的議論ともなっている。水環境中での検出濃度は概して低く、医薬品の種類や調査の時期・場所等により異なるが、多くは ng/Lのオーダーである。しかし、このような低濃度で環境中に存在する医薬品が人間の健康や生態系に対してどのような影響を及ぼすかに関する研究は必ずしも十分ではなく、リスク管理のために必要となる科学的知見の蓄積は乏しい。2016年3月、厚労省から医薬品の環境リスク評価に関するガイダンスが発出されたが、わが国における本課題に対する取り組みは、残念ながら、産官学のいずれにおいても欧米に大きく遅れを取っている。本来であれば、医薬品の恩恵を最も大きく享受している国のひとつとして、率先して課題解決に取り組む責任があると考えられる。<br> 医薬品が環境に及ぼす影響を正しく評価することは科学的に容易な作業ではない。しかしながら、環境に対する影響を心配することなく必要な医薬品を安心して使用することができるような状況が望まれる。そのためには、リスク評価・管理の責任を行政だけに押し付けるのではなく、すべてのステークホルダーがそれぞれの立場において果たすべき役割を理解し、責任を共有・分担してゆく必要がある。<br> その意味で、製薬業界における今後の課題として求められることはなにか。規制当局からの指示を待ち、従順な対応をとるという従来然としたやり方に留まるのではなく、CSR(企業の社会的責任)的観点から本課題に関わる国際的潮流を先読みし、「環境に配慮した製薬」に積極的に取り組み、結果的に環境だけでなくビジネスの“sustainability” にも資するような展開を自らの手で切り拓く努力が必要ではないか。その中でトキシコロジストの役割はチャレンジングなものかもしれない。しかし同時に、自らの存在意義を高める大きなチャンスでもあると考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205549209728
  • NII論文ID
    130006582327
  • DOI
    10.14869/toxpt.44.1.0_s26-5
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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