農薬研究開発の歴史・現状
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- 浅見 忠男
- 東京大学大学院農学生命科学研究科
書誌事項
- タイトル別名
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- The past, present and future of the studies on crop protecting agents
抄録
農薬を使わない農業は可能か?と問われれば人口減を許容するのであれば可能と答えるが、農薬を使わないで現在の地球上の人口を支えていくことは可能か?と問われれば答えは不可能と答えざるをえない。農薬は現在の農業生産を支えている必須の農業資材であり、我々の基本的な生存を可能にしているのであるが、なぜか軽視されているどころか無い方が良いとの考え方が一般的には強いように思われる。同じような化合物でありながらその扱いは医薬とは大きく異なる。人類が農業を初めて以来、病害虫や雑草の被害を減らし収量を確保することは重要な課題であったために、古い著述のなかにもイオウを処理したりトリカブトを使ったりとその工夫の痕跡が見られる。その工夫と努力の積み重ねの結果が現在の農薬である。日本でも食糧需給が逼迫していた戦後は、農薬工場の門前に農業従事者や問屋が行列を作って出荷を待ち望んでいたとの逸話を農薬会社勤務時代に聞いている。農薬は日本国内における製造と使用についてもコンセンサスと法律が共に定まっているだけでなく、近い将来の世界市場規模は7兆円と予測されている成長産業分野でもある。今回、なぜ農薬が使われる様になってきたのか、またなぜ悪く言われるようになってきたのかについて歴史を振り返りつつ、現在の農薬にまつわる話題について触れてみたい。また将来、地球規模での問題解決のために分野を超えた新しいテクノロジーの開発が求められており、植物の能力を高める新しいバイオテクノロジーと農薬を含む化学物質を組み合わせた農業技術は有力な選択肢の一つであると考えている。農薬は基礎技術の総合的な成果でもあることから、今後世界的規模での大学等による基礎研究や企業との連携による関連研究を総合して新しい農業技術の実用化研究行い、食料・エネルギー・環境問題を克服しつつ食糧の安定供給を確保することが重要であろう。
収録刊行物
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- 日本毒性学会学術年会
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日本毒性学会学術年会 42.1 (0), EL1-, 2015
日本毒性学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205549527040
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- NII論文ID
- 130005483369
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可