交通事故後の外傷性頚部症候群患者における疼痛を主とした症状の特徴

説明

【目的】交通事故後の外傷性頚部症候群(TCS)は,その特性上,治療の困難な例が多い.精神面の影響も大きいと認識されており,症状も多彩であり多様である.そこで,今回は理学療法(PT)の参考とすべく,TCS患者の疼痛や訴えの症状をまとめ,症状の基本的な特徴を検討したので報告する.<BR>【対象と方法】対象は,交通事故によって当院を受診した患者のうち,TCSと診断されて入院又は通院に至った11名(男6名,女5名)である.平均年齢は49.7±18.3歳であった.これらの対象者に対して,受傷時の状況,疼痛症状の出現時期,PT開始時の疼痛部位,疼痛の程度(わずかに痛い,やや痛い,痛い,非常に痛い,我慢できないほど痛いの5段階),疼痛の性質(患者独自の表現),疼痛の誘発,疼痛軽減の動作・方法,などを評価した.<BR>【結果】受傷時,全対象者は乗用車乗車中で,後方追突が6名(54%)と最も多く,次いで側面追突が3名(27%)であった.X線撮影像上では,特に原因となるような所見は見られなかった.<BR> 疼痛の出現時期は,翌日から疼痛が出現する症例が5名(45%)と多かった.疼痛部位は頚部後面が10名(90%)で,次いで頚部側面が7名(63%)と多く,その他はほとんどみられなかった.疼痛の程度は「痛い」が7名(63%)で最も多かった.疼痛の性質は「ズーン」という重苦しさを訴える症例が9名(81%)と最も多かった.疼痛の誘発動作は「いつでも痛い」・「横になったとき」が4名(36%)ずつであった.疼痛軽減の方法・動作は,「温める」が5名(45%)と最も多かった.疼痛の誘発は圧痛が7名(63%)で最も多く,次いで安静時痛6名(54%),伸長痛・運動時痛が5名(45%)であった.その他の症状としては,疲労感10名(90%),ストレス8名(72%),イライラ感7名(63%),頭痛6名(54%)が多かった.さらに少数ではあるが,睡眠障害やめまい,ふらつきなどを有する症例もみられた.疼痛憎悪の時間帯は,常に痛い者が7名(63%)で多かった.これらの統計的関連性はみられなかった.<BR>【考察】疼痛部位は予想通りの結果であったが,疼痛の程度として,我慢できないほどの痛みを訴える症例は,ほとんどみられず,中程度に痛い症例が多かった.痛みの性質は重苦しい感じが多く,常に痛いという特徴があった.温めると症状が緩和する症例が多いことから,筋原性の疼痛によるところが大きいと考える.しかし,疲労感,ストレスなどの自律神経様症状や,めまいなどのバレリュー症候群型の症状も見られた.酒匂ら(1970)は,自立神経症状の見られる者は予後不良と考察しており,これらの症状の評価,治療も考慮していかねばならない.交通事故後のTCSは事故保険が十分で,さらには被害者の場合は長期化する傾向にあり,PTでの対処も困難である.客観的な疼痛ならびに精神面の的確な評価を追求するとともに,予後との関連性も検討し,疼痛だけではなく,社会的背景までも含めた患者全体の評価,アプローチを行った方が効果的だと考える.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), C0754-C0754, 2005

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205562605440
  • NII論文ID
    130005012686
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.c0754.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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