慢性閉塞性肺疾患患者における胸郭モビライゼーションの即時効果

説明

【目的】呼吸理学療法の中で胸郭モビライゼーション(Chest Mobilization: CM)は,胸郭の可動性,呼吸効率や肺活量の改善を目的に実施されているが,その効果については明確になっていない.<BR>今回CMとしてよく実施される徒手胸郭伸張法の実施前後で肺機能検査を実施しその即時効果について検討した.<BR>【対象と方法】症状の安定した慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者16名(男性13名,女性3名:平均年齢:72.2±6.2歳)を対象に,CMの実施前後に肺機能検査,胸郭拡張差,動脈血酸素飽和度(SpO2),心拍数(HR),息切れ感を測定した.肺機能検査は,患者に5分以上の安静を取らせた後,肺気量分画および1秒量,1秒率を測定した.また,胸郭拡張差はテープメジャーを用いて,腋窩部,剣状突起部,第10肋骨部の3ヶ所で測定した.測定は3回行い最大値を測定値とした.SpO2,HRはパルスオキシメータにて測定し,息切れ感はVisual Analog Scale (VAS)にて評価した.CMは,呼吸器疾患の治療に5年以上携わっている理学療法士によって芳賀による徒手胸郭伸張法を一部変更して実施した.内容は背臥位にて肋骨の捻転,胸郭の捻転,端座位にて胸郭の側屈,胸郭の伸展,大胸筋のストレッチとし,治療時間は,臨床上実施可能な5~10分程度とした.分析は,各測定項目について対応のあるt検定を行い,危険率5%未満を有意とした.<BR>【結果】胸郭拡張差は治療後第10肋骨部で有意な改善がみられ,剣状突起部でも改善傾向を認めた.肺機能検査では,肺活量,比肺活量に改善傾向がみられたが有意ではなかった.また1秒量,1秒率には変化はみられなかった.HRは有意に低下していたが,SpO2,呼吸困難感は変化を認めなかった.拘束性の変化(%VC<80%)を呈している11症例で検討すると,胸郭拡張差(第10肋骨部,剣状突起部),VC,%VCで有意な改善がみられた.<BR>【考察】CMによって,胸郭拡張差,肺活量の増加傾向を認めたが,これは治療によって肋間筋をはじめとする呼吸筋の柔軟性の向上,肋椎関節や椎間関節,胸肋関節の可動性改善などにより胸郭のコンプライアンスが向上し,胸郭可動性および肺活量が改善したものと考えられた.呼吸困難感やSpO2は変化がみられないがHRは低下しており,酸素化,自覚症状までは影響しないものの,いくらかリラクセーションが図れたのではないかと考えられた.また,拘束性換気障害を合併した症例では有意な改善を認めており,COPD患者でも特に拘束性の変化を呈している,より重症な症例がCMの適応になると思われた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), D0567-D0567, 2005

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205562985600
  • NII論文ID
    130005012799
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.d0567.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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