後期高齢者の大腿骨頚部骨折術後の荷重時痛への取り組み

書誌事項

タイトル別名
  • ―内転筋群スパズムへのアプローチを試みて―

説明

【はじめに】後期高齢者における大腿骨頚部骨折術後では、内転筋群スパズムによる疼痛が術後の理学療法を阻害することが少なくない。実際、筋スパズムが当院のクリティカルパス(以下、パス)における歩行獲得へのバリアンスの1つとなっている。そこで、今回、術後の筋スパズムによる疼痛のため立位・歩行困難となった症例に対し、内転筋群へのアプローチを行った結果、疼痛が軽減し、バリアンスもなく受傷前の歩行能力を獲得できた一症例から若干の知見を得たので報告する。<BR>【症例紹介】81歳、女性、33kg、多発性圧迫骨折により当院入院中、トイレ内で転倒し左大腿骨頚部外側骨折と診断。介達牽引後、受傷5日後に観血整復固定術(γ-nail)施行。受傷前の歩行能力はT字杖歩行にて病棟内自立であった。<BR>【理学療法経過】術後は当院のパスに沿って二次障害の予防を目的に翌日から開始した。術後2週から立位・歩行練習を行っていたが、6週後より患側内転筋群の荷重時痛が出現した。この時の関節可動域は、股関節屈曲60度、外転・外旋5度で全てにおいて最終域で内転筋群の疼痛があり、特に外転、外旋に著明であった。患側荷重量は8kg、立位保持には上肢支持が必要で、ADLはFIMにて106点であった。疼痛軽減を目的に内転筋群に対して以下のようなアプローチを行った。1)漸進的筋弛緩法として股・膝関節軽度屈曲位とした背臥位で骨盤の側屈、回旋方向に2回/秒の速さでリズミカルに筋が十分弛緩するまで行い、2)持続的筋伸張法は背臥位にて10秒間痛みのない範囲で行い、3)外転・外旋筋群に対し相反神経抑制のための自動抵抗運動を実施した。その結果、11週後には内転筋群の荷重時痛は減少し、T字杖歩行も可能となった。この時点で、股関節屈曲90度、外転20度、外旋10度と疼痛も軽減していた。FIMは126点と、特に移動能力の向上が見られ、13週後には歩行器歩行自立、T字杖歩行見守りレベル、14週後には受傷前ADLの獲得が可能となった。<BR>【考察】本症例は、大腿骨頚部骨折術後6週頃から患側内転筋群の疼痛が立位・歩行困難となったため、内転筋群に対して筋リラクセーションを行うことで疼痛が軽減し、受傷前の歩行能力が獲得できた症例である。立位・歩行開始時期から筋スパズムが出現した原因として、後期高齢者特有の立位・歩行姿勢の関与が考えられる。立位姿勢は骨盤から下肢のアライメントが骨盤後傾位で運動連鎖により膝関節屈曲・内反・内旋位で、また歩容は立脚中期での骨盤下制が遊脚側の挙上を容易にしていること、さらに加齢による筋力低下、バランス能力を補うために内転筋群への過剰な筋活動が筋スパズムとして出現したと考える。今回、一例で検討したが、今後は症例を集めた研究が課題であるが、高齢者の心身機能および姿勢・動作を見ていく際には高齢者の特性を十分に理解しながら理学療法アプローチを行っていく必要があると思われる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), C0986-C0986, 2005

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205563092736
  • NII論文ID
    130005012762
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.c0986.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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