理学療法中にベッドから転落した事故のリスク・アセスメント

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抄録

【目的】日本は超高齢化社会を向えており、健康寿命の延長に向けて高齢者の転倒調査や介入研究が多く行われている。しかし、歩行時の転倒に比べて移乗時の転落事故の研究は少ない。そこで、本研究では訓練室で生じた移乗時の転落事故についてリスクアセスメントを行なった。【ケースプレゼンテーション】患者Aは72歳代の男性で、職業は医師である。脳卒中の右片麻痺にて入院加療が必要であった。脳卒中になる以前は、内科医の業務を行なっていた。運動障害は右上下肢の軽度運動麻痺と、ポリオによる左大腿四頭筋の筋力低下(MMTは2)であった。ADLはベッド上自立し、端座位も可能だが、移動は車いすであった。事故当日は、高さ約50cmの治療ベッドで諸練習を行っていた。主要な練習を終了し、担当理学療法士は患者Aの退出準備を行なった。担当理学療法士は車椅子を廊下に取りに行ったところ、患者Aは自分の靴を取ろうと身体を前屈みになった。坐位バランスを崩し治療ベッドから床に転落した。患者Aは、転落により左大腿骨頚部骨折した。【方法】中央労働災害防止協会の「職場におけるリスクアセスメント」の一部修正したアセスメントを行なったリスクアセスメントとは、職場にある危険源(hazard)を特定し、リスクを見積り、評価し、そのリスクが事故に至るかどうかを判断し、至ると判断した場合にはリスクの低減対策を実施する一連の論理的な手順のことである。リスクアセスメントの範囲を理学療法室内に限定し、対象業務を理学療法室で行う治療訓練の準備から、患者の退室までとした。業務は時系列に、「患者入室準備期」「患者訓練期」「患者退出準備期」に3区分した。次にSHELモデルと業務区分からマトリクス表を作成した。そして、参加者によりブレインストーミングを行なった。影響度は、危険源の転落リスクが、「重大」「限界的「許容」の3領域に区分することに決めた。リスクの評価とは、危険源の重大度に対する対応の判断である。見積もった危険源のリスクを3分割したものと、危険源への対応の3領域「受け入れられない」「望ましくない」「許容範囲」の分割表を作成して危険源のリスクを評価した。最後の手順は、危険源のリスク低減対策である。【結果】組織的な事故低減対策を行なった結果、5つの転落の危険源を抽出することができた。【考察】今回、組織的なリスクアセスメントを行ったが、以前の安全対策と比べて次のようなメリットが得られた。職場のリスクに対する認識を管理者も含めて共有できたこと、職場のリスクが明確になったこと、安全対策を合理的に優先度をつけて実施できたことなどである。デメリットとしては、1事例の対策に多くの時間がかかったことと、SHELモデルの理解が十分でないと危険源の抽出が不十分になることが考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), G0006-G0006, 2006

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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