階段昇降速度規定時、非規定時の心拍数変化の検討
説明
【目的】臨床場面では心拍数(HR)を運動負荷量、代謝量推定に用いることが多い。運動量把握の重要性も認識が高まり、速歩、走行、階段昇降など運動の種類、ペースを意識的に規定し日常生活の中で運動量を確保する工夫がされ、その指標にもHRが取り入れられてきている。階段昇降運動は日常生活に容易に取り入れられ、運動量の増量効果が高いと考えられる。そこで本研究は、階段昇降時運動のペースを規定した場合としない場合のHR変化を比較検討することを目的とした。【対象】被験者は成人男性15名(平均年齢22.5歳、身長171.9 cm、体重68.2 kg)であった。ヘルシンキ宣言に則り、被験者に対し、実験の目的、予想される結果及び危険性について十分な説明を行った上で、実験に参加する承諾を得た。また被験者には運動前3時間の禁食、運動前24時間の激運動の禁止を指示した。【方法】運動負荷方法は1階から3階までの階段昇降運動を用いた。まず、第1試行として被験者が通常行っている速度で階段昇降運動を行わせた。第2試行は電子メトロノームを用いて第1試行の平均速度のペースに合わせて、階段昇降運動を行わせた。各試行後には5分間の立位保持を行った。第1,2試行とも階段上り、下りは分けて行い、各々の運動前、運動中、運動後を通して、HRを経時的に測定した。HR測定は、ハートレートモニター(Polar Electro Inc.,Finland)を使用した。階段昇降運動前、運動中、運動後のHRの平均値、最大値、最小値および回復過程に要した時間を第1試行、第2試行間で比較した。統計処理はt検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】第1試行の階段昇降速度は上、下行各々114±12.6、122±13.0 steps/ minであった。上行運動中のHRの最大値は第1、2試行で各々117±9.7、126±7.4 beats/ minで、第2試行の方が有意に大きい値を示した(p<0.05)。回復過程に要する時間は第2試行が第1試行よりも長時間になる傾向がみられた。一方、階段下行運動中のHRの最大値は第2試行の方が大きい傾向が見られた。【考察】運動の速度や方向、調節のタイミングなどを把握しながら、日常生活動作を行うことは少ないと考えられる。通常の階段昇降運動時も同様に加減速、方向転換など適宜行っていると考えられる。また、動作時の各動筋への酸素供給等、循環系の調節は運動状態に応じ、至適状態に保たれている。本研究において、第2試行での階段昇降(とくに上行)運動時のHRが第1試行に比べ上昇がみられたことは、負荷量が増加したことを示している。昇降速度を規定されることで、動作の方向やタイミング等も規定され、通常の動作パターンとは異なり、過剰な運動により負荷量が増加したと考えられる。運動の種類、ペースを意識的に規定して日常の運動量確保を行う際には、これらの循環系の反応を十分に考慮して行うべきであることが示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2002 (0), 607-607, 2003
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205563779200
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- NII論文ID
- 130004577284
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可