端座位での前、側方上肢リーチ動作における距離と重心動揺

説明

【目的】坐位での前方及び側方への上肢リーチ動作は、坐位バランスの向上や、リーチ動作それ自体の動作の獲得を目的に中枢神経疾患患者の運動療法として実施されることが多い。そこで、健常人における上肢リーチ動作の特性を明確にすることを目的に、本研究では前方及び側方へのリーチ角度の違いが、重心動揺と上肢リーチ距離に及ぼす影響について検討を行った。【対象と方法】対象は健常学生25名(男性9名、女性16名)、平均年齢22±4.6歳、身長163.8±4.3cm、体重60.1±12.5であった。被験者には台上にのせた重心動揺計(アニマ社MG100)の上に端座位(足底不接地)をとらせ、開始肢位を左右それぞれの肩関節90°屈曲位から水平外転0°,45°,90°,-45°,-90°とした。その肢位から上肢の直線方向に最大リーチしてもらい、開始肢位からの距離と最大リーチ時の重心動揺と距離を測定した。重心動揺分析項目として、総軌跡長、単位軌跡長、矩形面積、X方向及び、Y方向最大振幅を測定した。また、リーチ距離は、開始肢位と最大リーチ時の第三指先端の距離とし、紐のついた重錘を用い、床面に記録、計測し、補正最大リーチ距離として最大リーチ長/体幹長(肩峰_から_大転子)を算出した。統計処理は正規性の確認後一元配置分散分析にて有意水準を5%とした。【結果】右上肢最大リーチ時の矩形面積では、水平外転0°が45°、90°,-45°,-90°に比べ有意(p<.05)に減少した。また、水平外転45°,90°,-45°間に有意差は認められず、水平外転-90°に対して0°,45°,90°,-45°が有意(p<.05)に減少した。右の総軌跡長においても矩形面積と同様の結果を示した。また、左上肢リーチ動作においてもほぼ同様な結果が得られた。補正最大リーチ距離は、左右の上肢リーチ-45°で最大を示し、次に両側で-90°においてリーチ距離が長く、0°・45°・90°では最大上肢リーチ距離に違いはみられなかった。【考察】端座位における前方及び側方への上肢最大リーチは、明らかにリーチ角度ごとに重心動揺の程度に違いを示した。重心動揺の大きさからその難易度について検討すると、リーチした同側の側方0°へのリーチが一番低く、次いでリーチ上肢と同側の45°,90°,そして反対側‐45で難易度は変わらず、一番難易度が高いのは正中を越えた‐90°であることが示された。補正最大リーチ距離が-45及び-90°で長かったことから、反体側への最大リーチ時には、反体側に重心が変位し、変位した重心を支点に、同側臀部が離床することによりリーチ距離を獲得していることが推測された。よって、-45°においては、リーチ距離そのものが長くても難易度としては今回の実験条件では中程度であり、-90°ではリーチ距離が短くても難易度が最も高いことから、リーチ距離よりもリーチ角度が安定性向上の指標になりうることが示唆された。今後は、中枢神経疾患の病態に準じた運動療法の検討が重要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2002 (0), 146-146, 2003

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564159360
  • NII論文ID
    130004576772
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.146.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ