仕事率・仕事量からみた歩行の運動力学的解析

書誌事項

タイトル別名
  • ―両脚支持期と片脚支持期におけるエネルギー変化の相違―

説明

【目的】健常者の歩行において,両脚支持期には片脚支持期と比較して重心位置が下がり,重心の移動速度が相対的に速くなる.一方,片脚支持期には逆の現象がみられる.そこには位置エネルギーと運動エネルギーの交換とともに,主に下肢の筋群によるエネルギー産出や吸収のメカニズムが効率よく働いている.しかし,その詳細に関しては不明な点も多く,各歩行周期を追ったエネルギーの産出・吸収に関する情報もその一つである.今回,歩行中のエネルギー変化に要する仕事率および仕事量に注目することで,エネルギー面からみた下肢筋群等による働きを検討した.<BR>【方法】対象は健常男女各15例で、男性の年齢は25.9±4.7歳 (21-35 歳) で,体重は62.1±6.8 kg,身長は170.3±5.1 cm であった.女性の年齢は23.4±4.7歳 (20-37歳)で,体重は54.6±6.3 kg,身長は160.3±5.3 cm であった.<BR>各被験者に,床反力計上を自由速度で歩行させ,3回の試行を分析対象とした.3次元計測を同期して行い,一歩行周期中の進行方向平均速度を求めた.床反力2回積分法を用いて重心の速度,変位,エネルギー変化,仕事率(パワー)を算出しグラフに描いた.さらに,仕事率を時間で積分することで,両脚支持期及び片脚支持期における仕事量を求めた.<BR>【結果】歩行速度は,男性の平均が72.4±7.6m/min,女性の平均が71.5±4.5m/minであった.重心変位や仕事量を表す指標に関しては男女差は認められなかった. <BR>パワー曲線のパターンは,男女全試行においていくつかの共通した特徴がみられた.すなわち,一歩行周期中に合計8回の増減の繰り返しがみられること,一歩行周期中の各2回の両脚支持期と片脚支持期にそれぞれ1回の「山」を持つこと,両脚支持期の「山」は急勾配で,ピーク値も高いのに対し,片脚支持期では比較的なだらかな曲線を描き,ピーク値も基線を少し超える程度で,全体として負の値をとる場合が多いことなどである.両脚期支持期における正の値から負の値を差し引いた仕事量は,男性が平均7.61±5.22 (J),女性が6.40±5.08 (J)であった.一方,片脚支持期における仕事量は,男性が平均 -7.06±5.28 (J),女性が -5.80±5.16 (J)であった.<BR>【考察】本結果は,両脚支持期が,主に身体を前進させるためのエネルギー産出の時期であり,そのために下肢筋群による求心性の活動が必要であること,逆に片脚支持期はエネルギーの吸収時期で,慣性力をコントロールして安定した歩行を獲得するために遠心性の収縮が主に行なわれていることを示唆するものと考えられる.これらのパワー曲線のパターンおよび仕事量は,臨床での種々の異常歩行を運動力学的に判断する上で貴重な指標になると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), A1032-A1032, 2005

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564211584
  • NII論文ID
    130005012222
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.a1032.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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