筋休息時間の異なる高強度等尺性反復運動が活動筋の脱酸素化と乳酸代謝に及ぼす影響

説明

【はじめに】等尺性筋力増強運動に伴う活動筋の脱酸素化と乳酸蓄積を軽減するための方法として筋休息時間の設定に着目した。そこで,今回はこれを検討するための基礎研究として,健常者を対象に筋の活動時間と休息時間の比率が異なる高強度の等尺性運動を反復させ,設定した運動条件の間において活動筋の脱酸素化と乳酸代謝の状態を比較した。<BR>【方法】被験者は,事前に研究の目的と方法などの説明を行い同意を得た健常人男性13名であった。等尺性運動の方法は被験者を等速性運動機器に坐らせ,右膝関節60度屈曲位にて膝伸展の等尺性収縮を最大努力により連続10セット反復させた。1セットあたりの筋活動時間は一定の6秒とし,セット間の休息時間は6秒と12秒,すなわち筋の活動時間と休息時間の比率が1対1と1対2(以下,それぞれ条件1と条件2)になるよう2条件の運動を設定した。なお,両運動条件の被験者は同一であるため,等尺性運動実施の順序は無作為とし,実施間には2日間の休息日を設けた。等尺性運動の間,右内側広筋の脱酸素化の指標として,近赤外線分光装置を用い酸素化ヘモグロビン量と脱酸素化ヘモグロビン量を測定した。また,大腿四頭筋における乳酸代謝の指標として,運動前および運動後1分・3分・6分の時点において指尖部で静脈血を採取し,簡易血中乳酸測定器を用いて血中乳酸濃度を測定した。<BR>【結果および考察】筋活動時の脱酸素化は両運動条件において有意であった。これの運動条件間での比較を酸素化ヘモグロビンの動態で示した場合,条件2の方が約15%も筋酸素化レベルを有意に高く維持することができた。また,筋休息時でも筋酸素化レベルに有意差を認めた。筋酸素化の回復を同じく酸素化ヘモグロビンの動態でみると,条件1では安静時の筋酸素化レベルを約20%も有意に下回っていたのに対して,条件2では安静時レベルと同程度までの回復を得ることができた。一方,運動後の血中乳酸濃度はいずれの時点においても運動前に対して有意に増加したことから,大腿四頭筋に乳酸が蓄積されたと推測される。ただし,運動後の血中乳酸はいずれも条件2の方が有意に低濃度であったことから,この運動条件では乳酸の産生とその酸化的リン酸化による除去のバランスが条件1に比べて均衡状態に近かったものと推察され,この結果には筋活動時と休息時での酸素化レベルの顕著な差異が密接に関係していたと考えられる。よって,等尺性筋力増強運動によって引き起こされる活動筋の乳酸蓄積とそれによる筋疲労を軽減するには,筋への酸素供給をできるだけ維持し,乳酸の産生増加とそれの酸化的除去にかかわる代謝能の低下を防止することが重要であると思われる。そのためには運動処方において適切な筋休息時間の設定が必要であり,今後は適用する筋収縮の強度,持続時間,反復回数の設定に応じたモデルケースの検討が必要である。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2003 (0), A0904-A0904, 2004

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564354944
  • NII論文ID
    130004577798
  • DOI
    10.14900/cjpt.2003.0.a0904.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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