脳梗塞に合併した半側空間無視に対する半側視覚遮断の一考察

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抄録

【はじめに】半側空間無視は左右の空間のうち片側に存在するものに対してこれを無視する現象である。我々は半側空間無視を空間に対する注意のバランスが崩れている状態ではないかという視点に立ち、空間無視のない側の視覚刺激を減らすことによって症状の変化を検討したので報告する。<BR>【症例紹介】83才、女性。平成16年7月右MCA領域に脳梗塞発症。重度の左半側空間無視(以下USN)を合併しているため、頭頚部・体幹は常時右回旋、眼球も右に偏位し、視線は右後方に及んでいた。上下肢ともに運動・感覚麻痺は軽度であるも、重度のUSNのため基本動作、ADLにおいて全介助を要した。口頭指示と介助にて立位・歩行が可能ではあるが、病識に乏しく、左半身の運動参加は少なかった。<BR>【視覚遮断の方法】右側からの視覚刺激を減らすために、視覚遮断用の眼鏡を装着し、その前後で症状の変化を観察した。視覚斜断用の眼鏡は、両側のレンズの右半分の視界を遮断し、さらに右眼のフレーム部分から光が入らないようにフレアをつけたものを使用した。<BR>【症例の変化】抗重力位では頭頚部が右回旋しており、眼球は右に偏位していたが、右半側視覚遮断を行うことで頭頚部・眼球とも正中位に近づき、ADL上での介助量が軽減した。<BR>【考察】USNは左右の空間に対する注意のバランスが崩れる為に、正常な体性感覚との統合に乖離現象を与え、姿勢や眼位の異常が起こる現象と考えられる。当院ではUSNに対し、視覚を完全に遮断することで体性感覚由来の姿勢保持状態を作り、身体の正中位保持を促すアプローチを施行していた。しかし、この方法では視覚遮断をしている間は効果的であるものの、視覚を開放すれば注意のバランスが崩れ、効果は一定しなかった。そこで右半側からの刺激が軽減された開眼状態でのアプローチを検討し、空間に対する注意を減らす方法として、視覚刺激を減らす半側視覚遮断を考案した。半側視覚遮断の効果を日常の生活場面に適応しやすく、簡便で実用的な方法として、眼鏡の半側を遮断する方法を施行した。結果、運動麻痺は軽度なものの、重度のUSNのために、ADLにおいて全介助を要する症例に対し、半側視覚遮断を行い、頚部の過剰な右回旋の軽減、眼球運動の正中化、並びに介助量の軽減を得ることができた。眼鏡を用いた半側視覚遮断はUSNに対するアプローチとして、非常に簡便であり、臨床での応用範囲も広く、有用な可能性があると考えられた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2004 (0), B0115-B0115, 2005

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564675200
  • NII論文ID
    130005012363
  • DOI
    10.14900/cjpt.2004.0.b0115.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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