前鋸筋の筋力強化による肩関節の筋力の変化

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【目的】 肩関節の筋力低下は、腱板などの肩甲上腕関節の筋力低下のみならず、肩甲骨の安定性の低下によるものが少なくない。肩甲骨の安定性には前鋸筋が大きな役割を果たしており、安定性が低下している例に対しては前鋸筋のエクササイズを行うが、その有効性は明らかではない。本研究は、前鋸筋の筋力強化により肩関節の筋力が増加するという仮説のもと、その効果と有効性を分析した。<BR>【方法】 肩関節に疾患を有さない健常男性を対象とし、15名をエクササイズ群、12名をコントロール群とした。エクササイズ群に前鋸筋エクササイズであるElbow push up plusを1日20回×3セット、1週間行わせた。エクササイズ前と1週間後に肩関節の屈曲、外転、内旋、外旋および肩甲骨の外転筋力を測定した。肩関節の筋力の測定は徒手筋力検査法に準じ、マイクロFET2(HOGGAN Co.)を用いて得た力(N)にレバーアーム長を乗じてトルク値として算出した。肩甲骨外転筋力はマイクロFET2で得られた値とした。エクササイズ前の筋力を基準値100とし、1週間後の値を算出し、エクササイズ前後で比較した。また、コントロール群もエクササイズ群と同様に初日と1週間後で筋力測定を行い比較した。統計処理は対応のあるt検定を用い、危険率1%未満を有意とした。<BR>【結果】 エクササイズ群は1週間後に右肩関節屈曲106±5、外転110±10、内旋117±17、外旋105±9、肩甲骨外転119±20であり、左肩関節は屈曲108±9、外転113±12、内旋113±10、外旋104±8、肩甲骨外転114±12であった。コントロール群は1週間後に右肩関節屈曲101±5、外転101±6、内旋100±6、外旋101±4、肩甲骨外転100±2であり、左肩関節屈曲101±6、外転99±5、内旋99±5、外旋102±4、肩甲骨外転99±3であった。エクササイズ群は両肩関節屈曲、外転、内旋、肩甲骨外転で有意に筋力が増加したが、外旋では有意な筋力の増加はみられなかった。一方、コントロール群ではすべての筋力において有意な増加はみられなかった。<BR>【考察】 肩関節は肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節を中心に構成されており、前鋸筋の筋力低下による肩甲骨の不安定性は、肩関節の筋力低下の要因となる。Elbow push up plusは前鋸筋の筋力強化エクササイズであり、肩甲骨の安定性の向上を目的としている。今回の研究ではその効果により肩関節の筋力が増加したと考えられる。Elbow push up plusによって肩関節屈曲、外転、内旋筋力が増加した理由については、それらの運動が前鋸筋の作用である肩甲骨後傾、上方回旋、外転を伴うためであると考える。本研究の結果は、肩関節の筋力の評価や理学療法の処方において有効な情報になりうる。

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