脳梁離断症状を示した左片麻痺患者に対する理学療法の経験
説明
【はじめに】脳梁切断または脳梁損傷後の患者において、右手の動作に対して左手が不随意に反対目的の動作をとる特異な症状がみられることがある。Akelaitis(1942)の報告以来、この脳梁離断症状は拮抗失行と呼ばれ研究されているが、その理学療法に関する報告はほとんどない。今回このような症状を示した左片麻痺患者の理学療法を経験したので報告する。【症例】47歳男性、右利き。診断名:右後頭葉梗塞、左片麻痺。現病歴:2002年6月4日発症。同日K病院入院。保存的に経過後、7月19日当センター入院。MRI(T2強調画像)において右後大脳動脈領域、視床、脳梁膨大部、延髄に高信号域を認めた。【入院時所見(発症後6週)】JCS1-1、失語、構音障害なし。上下肢手指ともにBrunnstrom stage5、平行棒内歩行自立。表在、深部覚とも重度鈍麻。筋緊張は正常、病的反射は認めなかった。MMSは26/30点。左半側空間無視、構成障害、全般性注意障害、体軸の歪み、左同名半盲、運動維持困難も認めた。特徴的な拮抗失行として次のような症状がみられた。口頭指示や模倣動作に対し、左上下肢を意図的に動かすことができなかった。動作は一度の誘導で可能となるが、新たな指示に対しては前動作の保続がみられた。更衣においては右手でボタンをはめながら左手ではずす、シャツをズボンの中におさめても左手で出してしまうといった動作がみられた。【理学療法アプローチと主な経過】(1)運動覚、足底圧覚など体性感覚の適正化を目的とした課題(2)右上下肢で行った運動を、時には鏡を用い、想起してから左上下肢で再現する運動課題(3)左右の協調性を必要とする運動課題(4)歩行訓練。以上(1)から(4)を行った。4ヵ月後、左上下肢の自発性運動は多くみられるようになった。左手は補助手レベルとなり、更衣における拮抗失行は消失し、屋外歩行も自立した。しかし未だ検査場面において拮抗失行は出現する。【考察】拮抗失行は脳梁体部後端部、または膨大部の損傷により両側半球の上頭頂小葉が離断され、その結果生じる可能性が高いといわれている。上頭頂小葉は自発性運動の制御に重要な役割を果たしていると示唆されており、本症例において左上下肢の自発性運動が困難だった原因として説明される。本症例では林らの報告と一致し、「学習性の高さと応用性の乏しさ」という特徴を認め、未経験な課題を繰り返すことにより可能な動作が増えた。しかし、目的動作を意識すれば拮抗失行は出現した。「心理的緊張や不安は症状出現の誘発要因」という報告通り、本症例は「できない」と感じることで、より拮抗失行が増悪したため、成功を想起させる運動課題を取り入れる工夫をした。これが体性感覚を適正化させるアプローチとともに左上下肢の自発性を高めた可能性があると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2002 (0), 327-327, 2003
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205564814592
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- NII論文ID
- 130004576973
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可