著しい改善を示した橋中心髄鞘崩壊症の理学療法経験

説明

【はじめに】橋中心髄鞘崩壊症は1959年にAdamsらが、橋中央部に対称性・非炎症性の脱髄病変を報告したのが最初の記載であり、その発症メカニズムは未だ不明であるが、低ナトリウム血症の急激な補正によって生じる病変と考えられている。臨床症状は意識障害、四肢麻痺、仮性球麻痺等で、かつては死亡率の高い疾患とされていたが、近年では生存例や回復例も報告されている。今回、重度の四肢麻痺、仮性球麻痺症状で発症し著しい回復を示した理学療法を経験したので改善状況を若干の考察を加えて報告する。【症例】症例は66歳の女性で、平成13年3月頃より身体の傾きと食欲不振が起こり5月23日呂律難出現し近医入院となる。入院後下血・吐血が頻発、6月23日には四肢麻痺出現、下血も改善されないため国立循環器病センターへ精査目的で転院し橋中心髄鞘崩壊症の診断を受ける。その時点の意識レベルI-1、筋力右上下肢PからF、左上下肢Z、ADL全介助であり仙骨部には褥瘡も合併していた。平成13年9月11日リハビリテーション・高気圧酸素療法目的で当院へ入院となる。【経過及び理学療法プログラム】入院時、意識レベルI-1、MMTは右上肢FからG、右下肢PからF、左上肢PからF、左下肢ZからP、ROMは全ての関節に可動域制限を認めた。基本動作は全介助、歩行不能で端坐位はベッド柵の把持にて可能であった。また動作時に仙骨部の褥瘡により疼痛を訴えていた。アプローチとしては廃用性筋萎縮・関節拘縮に対する可動域・筋力増強訓練、その他、基本動作・ADL訓練を主に施行した。以下に関節可動域・筋力増強訓練、基本動作、歩行に着目しその経過を述べる。_丸1_関節可動域・筋力:入院時、著しい廃用性関節拘縮を呈していたが退院時にはフルレンジとなり、筋力も両上下肢Gレベルへと回復した。_丸2_基本動作・ADL:FIM運動得点では、入院時13点と全介助であったが、3ヵ月後には寝返り・起き上がり・坐位の獲得に伴い28点、6ヵ月後にはT字杖での歩行・階段昇降が自立し61点、9ヵ月後には91点で全てのADLは自立となり自宅復帰を果たした。【考察】本症例は発症から5ヵ月もの間、重度の四肢麻痺・仮性球麻痺症状を呈し褥瘡の疼痛は訴えるが寝返りもうてない状態であった。当初は、廃用性筋萎縮・関節拘縮の防止を目的とした維持的な訓練が主であったが、それに加えて褥瘡に対する除圧目的で寝返りを中心とした訓練を施行した。その結果、褥瘡の改善と疼痛の軽減に伴い、体幹機能の向上、坐位・立位の安定性の向上、更には歩行獲得へとつながったと考えられる。本症例においては重篤な意識障害を認めず、褥瘡の痛みが脳幹網様体を賦活し、理学療法の阻害因子とならなかったことに加え、年齢も若く、回復への意欲も高かったことがリハビリテーションを勧めていく上で効果的に働き、能力の獲得に大きく関与したものと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2002 (0), 352-352, 2003

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564818432
  • NII論文ID
    130004577001
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.352.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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