多発性硬化症患者に対する理学療法の有用性の検討

説明

【はじめに】多発性硬化症(以下MS)は空間的、時間的多発性を示す中枢神経の脱髄疾患である。初期には症状の改善も顕著であり、ADLが自立している場合が多いが、再発を繰り返す度に後遺症が累積しADLに悪化を来すことが多く、MS患者に対する理学療法(以下PT)は重要であるが、これまでの報告は少ない。今回、MS患者の入院病歴より後方視的検索を行い、MSに対するPTアプローチの有用性について検討したので、報告する。【対象と方法】対象は、2000年4月から2002年10月までに当院に入院し、PTを施行したMS患者12名(全て女性。平均年齢32.8±8.5歳。初発年齢平均26.1±6.2歳。平均罹病期間7.1±7.5年)。評価項目としては、(1)PT平均回数、(2)PTアプローチ、(3)PT開始時と終了時のEDSSスコア(重症度の指標)、(4)PT開始時と終了時のBarthel Index(以下BI)を用いて、PTの有用性を検討した。【結果】(1)PT平均回数:18回(5から48回)。PT施行期間中、ステロイドパルス療法患者8名、インターフェロン投与患者4名。(2)PTアプローチ:PT開始時に運動麻痺、感覚障害、小脳失調から生じる歩行障害が多く認められ、立位・歩行練習、下肢筋力強化運動、応用動作を用いたバランス練習、協調運動練習を実施した。また運動麻痺が重度に出現した場合は、移乗動作、床上動作練習を中心に実施した。(3)EDSSスコア推移:EDSSスコアの平均は、PT開始時4.6、PT終了時4.0であった。またPT終了時に歩行能力を獲得し、車椅子生活に至らなかった患者(以下非車椅子生活群:EDSS<7)が10名存在した。この群での平均EDSSスコアは、PT開始時3.9、PT終了時3.1であった。(4)BIスコア推移:BIの平均は、PT開始時77.1、PT終了時86.7であった。非車椅子生活群では、PT開始時86.5、PT終了時98.5であり、高レベルのADLを獲得していた。【考察】当院では急性期のMS患者が大半であり、内科的な治療がPT施行と同時にされていることが多く、熱発、倦怠感など治療に随伴する症状にも配慮しながら、多彩な運動障害に対し、PTを進めていくことが必要となる。脳卒中と比較して一回の発作で生じた機能障害の改善が速やかであることから、神経学的に比較的中等度な機能障害の症例に対しては、動作能力と動作効率の改善を目的としたPTを実施することで、歩行自立と共に、高いADL能力の獲得が可能となり、PTアプローチは有用であったと考えられた。また再発を繰り返し、視覚障害や運動麻痺の重度化が出現し、ADL能力の悪化に直接つながっていた機能障害の重度な症例に対しては、退院後の生活レベルも予測しながらアプローチしていく必要性が改めて示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2002 (0), 363-363, 2003

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205564843136
  • NII論文ID
    130004577013
  • DOI
    10.14900/cjpt.2002.0.363.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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