高齢者を対象とした転倒予防トレーニングの効果
説明
【はじめに】近年、高齢者の転倒に対する関心が高まっており、転倒予防教室における運動介入とその効果についての報告も多く認められる。高齢者の転倒はバランス機能の低下に起因するところが大きく、そのため、介入効果としてバランス機能の評価が広く用いられている。バランス機能は静的姿勢保持、随意運動時のバランス制御、身体外乱に対する姿勢反応(外乱負荷応答)に分類することができ、多角的なバランス評価が必要であると考えられる。そこで本研究では、高齢者に対する転倒予防運動介入がバランス評価項目へ与える影響を通じて、その介入効果および有効性を検討した。<BR>【方法】対象は地域在住の重篤な疾患のない住宅高齢者25名(平均年齢69.8±2.8才、男性13名、女性12名)とし、3ヶ月間の介入をおこなった。対象者は健康運動指導士による転倒予防教室に月2回参加し、加えて毎日の在宅トレーニングとして自重を用いた低負荷な筋力強化運動、ストレッチング、足趾把握運動、さらに2日に1度の20分以上のウォーキングを行った。静的姿勢保持機能の評価として片脚立位時間(OLS)、静止立位時の重心動揺計を用いた足底圧中心(CoP)の総軌跡長(LNG)および外周面積(ENV.AREA)を計測した。随意運動時のバランス制御の評価として、Functional Reach Test (FRT)・最大一歩幅・Timed Up & Go Test (TUG)・10m歩行時間を計測した。外乱負荷応答の評価は独自に開発した床面動揺機を用い、床面水平外乱により惹起される姿勢反応に対して、前脛骨筋、大腿直筋、腓腹筋外側頭、大腿二頭筋長頭のEMGを記録した。外乱刺激から筋活動が起こるまでの反応潜時と反応開始後1秒間の積分値を最大収縮時の積分値で除した値(%IEMG)を求めた。<BR>【結果】静的姿勢保持評価に関しては、LNG、ENV.AREAは開眼、閉眼ともに有意に増加した。随意運動時のバランス制御に関しては、随意的なCoP移動量の左右、後方における有意な増加、FRTの有意な増加、10m歩行時間の有意な減少が認められたが、TUGの有意な変化は認められなかった。外乱負荷応答に関しては、姿勢反応における主動作筋、拮抗筋の%IEMGが何れも有意に減少し、さらに拮抗筋における潜時の有意な短縮が認められた。<BR>【考察】転倒は動作中に頻発するとされており、本研究において随意運動時のバランス制御の項目に多くの改善がみとめられたことから、今回の運動介入の転倒予防に対しての有効性を示唆される。また、静止立位の重心動揺(LNG、ENV.AREA)に関しては、静的姿勢保持機能の低下としてとらえるよりも、身体外乱を吸収するための一種の柔軟性の獲得という運動学習効果ではないかと推察している。また、転倒防止の最後の身体反応として位置づけられる外乱時の姿勢反応についても波及的な効果が認められ、今回の介入が高齢者の総合的なバランス機能改善に効果を有すことが確認された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2004 (0), E0158-E0158, 2005
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205564941056
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- NII論文ID
- 130005012963
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可