MRIを用いた胸式呼吸と腹式呼吸における横隔膜運動の動的解析
説明
【研究目的】腹式呼吸は臨床で広く用いられているが,その定義は定かではない。一般に呼吸理学療法では,補助呼吸筋が動員された胸式優位の呼吸様式から横隔膜優位の呼吸様式に変更する呼吸法の一つとして捉えられており,横隔膜運動は胸式呼吸よりも腹式呼吸の方で増加していることが推察される。しかし,呼吸様式と横隔膜運動の関係を調べた報告は非常に少なく,その関係は明確にされていない。<BR> そこで本研究の目的は,MRIを用いて胸式呼吸と腹式呼吸における横隔膜運動の差異を動的に解析し,呼吸理学療法に関わる基礎的知見を得ることとした。<BR>【対象と方法】対象は健常男性11名(age: 23.9±3.5歳,BMI 21.9±2.9kg/m2,%VC 103.5±19.1%,FEV1.0% 88.4±8.7%)。<BR> 実験手順は,最初に対象者に対し,理学療法士が胸式呼吸と腹式呼吸の両呼吸様式の指導と練習を行わせた。呼吸様式の評価には,斜角筋と横隔膜の筋活動を視診・触診より判断し,腹式呼吸の程度を段階的に評価する千住らの腹式呼吸の評価法を用いた。この評価法にて,グレイド2以下を胸式呼吸,グレイド4以上を腹式呼吸と定めた結果,対象者全例において,胸式呼吸と腹式呼吸を使い分けることが可能となった。<BR> 次に,MRI装置(Philips社Gyroscan ACS-NT Power Track 3000)を用い,胸式呼吸及び腹式呼吸を背臥位で実施させ,各々,30秒間の呼吸運動を0.5秒間隔で,撮像した。撮像部位は右横隔膜とし,気管支分岐を通る冠状面スライスと右鎖骨中央部を通る矢状面スライスを選択した。撮像にはfast spin echo法におけるT2強調画像をrepetition time 480msec,echo time 40msecにより撮像した。取得した画像は,パソコン上に取り込み画像解析ソフト(NIH image)を用いて解析した。<BR>横隔膜・胸郭運動の解析方法は,呼気位と吸気位のそれぞれの移動距離を求め,それらを横隔膜・胸郭の運動距離として,比較の上検討を加えた。横隔膜・胸郭運動の変化量は二元配置分散分析を行い,さらに,Scheffe法を用いて多重比較検定を行った。<BR>【結果と考察】胸式呼吸と腹式呼吸における横隔膜運動は,冠状面ならびに矢状面のいずれもの変化も,腹式呼吸で有意に増加する傾向にあった(P<0.01)。胸郭運動の変化は,冠状面ならびに矢状面のいずれの変化も,腹式呼吸で減少する傾向にあった。この事から,腹式呼吸では胸郭の拡張が少なく,横隔膜の運動範囲が安静呼吸時に比して増大する呼吸法であり,逆に胸式呼吸では胸郭の拡張が多くなり,横隔膜の運動範囲が腹式呼吸よりも少ない呼吸法であることが検証された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2003 (0), D0690-D0690, 2004
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565084800
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- NII論文ID
- 130004578383
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可