心臓血管外科術後の呼吸器合併症発生因子と呼吸理学療法の有用性
説明
【はじめに】心臓血管外科手術後は早期に自立歩行を獲得し運動耐容能の改善を図ることが重要であるが、そのためには術後合併症の予防や早期離床は不可欠である。しかし術後は無気肺をはじめとする呼吸器合併症を発生しやすいとされており、これらの予防、改善に対して呼吸理学療法が有用であることが多数報告されている。一方で術式や術後管理などが進歩し、その有用性について再検討する必要も出てきている。今回我々は心臓外科手術を受けた患者背景の詳細と理学療法進行状況を診療録より後方視的に調査を行い、呼吸器合併症の関連因子と呼吸理学療法の関わりについて検討し若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象】対象は、当院心臓外科にて手術を受けた患者47例(平均年齢69.4±9.8歳、男性29例、女性18例)である。術式の内訳は冠動脈バイパス術26例、弁置換術9例、人工血管置換術12例であった。<BR>【方法】診療録より後方視的に、年齢、BMI、喫煙の有無、術記録(術式、手術時間、人工心肺時間)、抜管後の酸素化能(P/Fratio)、術前呼吸訓練の有無と呼吸器合併症の有無、起立までの期間との関連性について検討した。術前呼吸訓練はインセンティブスパイロメータ、深呼吸、喀痰指導を施行した。統計処理にはχ2乗検定およびt検定を用い、有意水準5%未満とした。<BR>【結果】年齢、BMI、手術時間、人工心肺時間に有意差は認められなかった。呼吸器合併症の発生因子は、喫煙(p<0.05)、冠動脈バイパス術(p<0.05)、抜管直後のP/Fratio(p<0.05)、術前呼吸訓練未施行群(p<0.01)に有意差が認められた。術前呼吸訓練未施行群の抜管直後のP/Fratioは、施行群と比較して有意に低値であった(p<0.05)。また抜管直後の呼吸理学療法施行によりP/Fratioは有意に改善した(p<0.01)。術前呼吸訓練未施行群においても有意にP/Fratioは改善したが(p<0.01)、そのうち呼吸器合併症発生群では未発生群と比較して低値(300未満)を示す傾向であった。起立までの期間は平均7.0±4.0日で、呼吸器合併症の発生(p<0.01)、冠動脈バイパス術(p<0.05)、術前呼吸訓練未施行群(p<0.05)において有意に遅延していた。<BR>【考察】心臓血管外科術において術前呼吸訓練は抜管後の酸素化能低下と呼吸器合併症を予防し早期離床を促すことが示された。これは術前からの呼吸訓練指導が抜管後の速やかな肺胞含気を促し無気肺など呼吸器合併症を予防させたと考えられる。また呼吸理学療法は抜管直後の酸素化能を改善させ有用性が認められたが、低値を示した例では合併症を引き起こしやすく離床が遅延することが示された。しかし酸素化能改善が得られなかった因子については今回明らかにされていない。今後症例数を増やし、さらに検討していくことが必要である。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2003 (0), D0683-D0683, 2004
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565085952
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- NII論文ID
- 130004578381
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可