坐骨神経損傷後のマウス足底における神経再生と皮膚の形態変化

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抄録

【はじめに】末梢神経が傷害されると,運動麻痺に加えて痛覚過敏などの感覚異常が長期にわたって残存することが多い。また,皮膚にも表皮の萎縮などの変化が見られる。本研究では,末梢神経損傷による感覚異常の原因を調べる目的で,マウスの坐骨神経に挫滅損傷を与え,皮膚における神経の再生および皮膚の形態学的変化を経時的に光学顕微鏡顕と電子顕微鏡で観察した。<BR>【材料と方法】9-11週齢のddy系雄マウスを,ネンブタール(50mg/kg)の腹腔内投与により麻酔し,左側の坐骨神経を露出した。手術用顕微鏡下で,コッヘルを用いて,大腿中央の高さで坐骨神経に挫滅損傷を与えた後,皮膚を縫合した。また,右側では坐骨神経を露出したのみで皮膚を縫合した。坐骨神経に損傷を与えて7,14,21,28日,2および3ヶ月後に各3匹ずつ,上記麻酔下で4%パラホルムアルデヒドと2.5%グルタルアルデヒドの混液を左心室から灌流して屠殺した。なお対照群として,それぞれに対応する週齢のマウスを同様に屠殺した。そして左右の足底の皮膚(footpad領域)を採取し,さらに同固定液で4時間浸漬固定した。その後,1%オスミウム酸で後固定し,アルコール系列とプロピレンオキサイトで脱水・透徹後,型の如くエポキシ系樹脂に包埋した。光顕用には厚さ約1μmの準超薄切片を作成し,トルイジンブルーで染色した。また電顕用には厚さ約80nmの超薄切片を作成し,酢酸ウランとクエン酸鉛で二重染色した。<BR>【結果】坐骨神経挫滅7日後では,真皮乳頭層の無髄神経や真皮深層の有髄線維はすべて変性していた。また,表皮基底層のいくつかの細胞に軽度の核濃縮が観察された。損傷後28日では,真皮乳頭層にいくつかの再生神経軸索や成長円錐が観察され,真皮の深層では再髄鞘化された有髄線維も観察された。また,真皮乳頭層の膠原線維がやや増加していた。そして表皮では,基底層の細胞のいくつかに,核の濃縮や核膜槽の拡張など,はっきりとした変性像が観察された。損傷後3ヶ月では,真皮乳頭層の無髄線維や真皮深層の有髄線維は対照群とほぼ同程度に観察されたが,真皮乳頭層の膠原線維は著明に増加していた。また,表皮には変性像を示す細胞も観察された。<BR>【考察】皮膚の真皮乳頭層における神経の再生は坐骨神経損傷後1ヶ月頃から始まり,その後再生神経は増加する。しかし,表皮の回復はまだ十分でなく,特に真皮では膠原線維の増加(線維化)が遷延していた。このような表皮および真皮の形態変化が,長期に残存する感覚異常と密接に関係している可能性が示唆された。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2003 (0), A0228-A0228, 2004

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205565473664
  • NII論文ID
    130004577678
  • DOI
    10.14900/cjpt.2003.0.a0228.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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