ハムストリングスの柔軟性が体幹前屈位保持時の筋活動におよぼす影響
説明
【目的】柔軟性は,健康関連体力を構成している要素の一つである.腰部の受動組織は,腰部の筋の働きにより保護されており,腰背部や大腿後面の柔軟性が欠如することにより,腰痛を来たすと報告されている.しかし,筋の柔軟性が同一姿勢保持時に,筋活動の様相に対して与える影響を検討したものは少ない.そこで,本研究では,ハムストリングスの柔軟性に着目し,体幹前屈姿勢保持時の筋活動におよぼす影響を筋電図学的に解析し,その際の筋の持久力および腰痛との関連性を検討したので報告する.<BR><BR>【方法】腰痛など筋骨格系の障害を有さない健常成人男性20名(22.8±1.8歳,171.6±5.2cm,63.7±8.9kg)を対象とした.なお,本研究は,対象者に説明を行った上で同意を得て行った.SLR,長座体前屈,背筋力指数(背筋力/体重),腰部傍脊柱筋(Lumbar paraspinals:LP)および内側ハムストリングス(Hamstrings medialis:HAM)の筋活動を測定した.電極は,表面筋電図マニュアルに準じた.測定肢位は,体幹前傾30°とし,終了は体幹前傾30°±5°の範囲から逸脱した時点とした.SLRおよび長座体前屈の値を参考に2群(柔軟性あり群,柔軟性なし群)に分けた.統計学的解析は,JSTAT for Windowsを用い,対象者のSLRと長座体前屈の相関,およびSLRまたは長座体前屈と姿勢保持時間の相関をSpearmanの順位相関係数にて求めた.SLR,長座体前屈,姿勢保持時間,背筋力指数,筋電位変化率および周波数変化量の6項目に関して,対応のあるt検定を行った.筋電位変化率は,動作終了直前の30秒間の平均筋電位を動作開始から30秒の平均筋電位で除し,100をかけた値とした.周波数変化量は,姿勢保持開始直後3秒間と終了直前3秒間の周波数を算出し,その差の値とした.<BR><BR>【結果】対象者20名のHAMの柔軟性(SLR,長座体前屈)に関して,有意に正の相関が認められた(r=0.809,p<0.001).SLR,長座体前屈は,各群間で有意差が認められた(p<0.001).姿勢保持時間,背筋力指数は,有意差は認められなかった.LPの筋電位変化率は,柔軟性あり群で有意に高く(p<0.05),HAMの筋電位変化率は,柔軟性なし群で有意に低かった(p<0.05).両群のLP,HAMの周波数は,有意に低下し(p<0.05),筋電図学的に疲労が認められた.<BR><BR>【考察】本研究において,対象者を2群に分けた方法は,柔軟性に有意な正の相関関係があり,これを基に群分けを行った.また,周波数解析により本研究の動作は,筋電図学的に十分疲労を生じさせるタスクであった.そして,姿勢保持時間が変わらないこと,および筋電位変化率に変化の違いが認められたことより,柔軟性あり群は主にLPが活動し,柔軟性なし群は主にHAMが活動することにより姿勢保持ができたものと考えられる.<BR><BR>【まとめ】同様の姿勢保持を行う場合,柔軟性の違いによって姿勢制御のストラテジーも異なり,この違いが腰痛発症の一因になることが示唆された.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), A3P2037-A3P2037, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565609600
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- NII論文ID
- 130004580064
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可