脊柱のモビリゼーションが健常者の柔軟性に及ぼす影響について

Description

【目的】腰痛に対する運動療法は、従来からリラクセーションやストレッチング、筋力トレーニングなどが有効な保存療法の一つとして用いられている.しかし、運動の種類や方法はさまざまであり、また、指導した運動の自宅における実施状況は、運動時間や運動の繁雑さから必ずしも良くはなく、その効果は明確ではない.そこで、我々は腰痛患者に対するホームエクササイズの一つとして、クラインフォーゲルバッハによる脊柱の負荷なし・負荷の少ないモビリゼーションを応用した5分程度で行える仰臥位で可能な方法を立案した(以下、Mobil.ex).今回、この運動が健常者の柔軟性に及ぼす影響について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】対象は、研究の説明を受け同意の得られた腰痛のない健常成人13名(男性5名、女性8名、平均年齢25.1±2.8歳)を対象とした.<BR> 測定は、定規(JIS規格)と角度計を用い、Mobil.ex施行前後における立位での体幹前屈(FFD)と側屈、腹臥位での体幹後屈距離、座位と立位での体幹回旋角度、および股関節の関節可動域(SLR、屈曲、伸展、外旋、内旋)について測定した.また、FFD、側屈、体幹後屈、体幹回旋では測定時の筋の伸張痛と腰背部の痛みについてVASで測定した.<BR> 各測定間の運動(Mobil.ex)は、上位胸椎・下位胸椎・腰椎の各部位を意識して回旋、側屈、左右移動の動きを行うもので、それぞれ20回ずつ行った.統計学的解析は、Mobil.exの前後の変化に対して対応のあるt検定と分散分析を用いて、有意水準5%未満にて比較検討した.<BR><BR>【結果】Mobil.ex前後の比較において、FFD、側屈など体幹の柔軟性の全ての項目とSLR以外の股関節の可動域には有意差が見られなかったが、両側SLRでは有意な改善を認めた.また、Mobil.ex施行前に見られていた左右差の改善は見られなかった.<BR> また、体幹後屈時、立位での右への体幹回旋時のVASに有意差を認め、筋の伸張感や腰背部の痛みは軽減していた.<BR><BR>【考察】SLRの角度や体幹の後屈、回旋のVASが改善した理由として、Mobil.exは、短時間かつ仰臥位での運動ではあるが、施行時に意識的に脊椎を分節的に動かすことにより、腹横筋などの収縮や背筋群の筋緊張緩和が促進され、骨盤や股関節周囲のアライメントが変化したことが総合的に作用したものと考えられる.<BR> しかし、簡便に行える一方で単回の運動では部位によって十分に習熟出来なかった被験者も見られ、運動時間や指導方法に課題を残したが、Mobil.exを継続し習熟度が増すことやストレッチを加えることで、さらに柔軟性の改善や筋の伸張感や腰背部の痛みを軽減する可能性があると推測される.<BR> 今回、健常者の柔軟性や自覚的な伸張感などに及ぼす影響が示唆されたが、今後はより詳細にストレッチなど他の運動療法と比較検討を加え、どの運動療法が腰痛疾患に対して効果があるのか検討する必要がある.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205565628544
  • NII Article ID
    130004580042
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.a3p2015.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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