外傷性翼状肩甲の1例
説明
【目的】<BR> 翼状肩甲は長胸神経麻痺による前鋸筋の筋力低下や副神経麻痺による僧帽筋の筋力低下によって生じる.今回、外傷後に翼状肩甲が生じた症例を経験したので、病態考察を踏まえ、報告する.<BR>【症例】<BR> 症例は中学生の女性.体育祭の練習で転倒.将棋倒しとなり受傷.第7頚椎棘突起骨折、肩甲骨骨折と診断された.その後、右肩屈曲90°程度の自動挙上制限と肩甲骨外側痛があった.徐々に疼痛や可動域制限は改善したが、違和感のみが残存し、当院紹介受診となった.<BR> 上肢下垂位で肩甲骨下角のwingingがみられ、肩甲骨の前傾、下方回旋が過度に起こっていた.肩挙上90°までの肩甲上腕リズム(以下、SHリズム)に左右差が見られ、挙上45°までは肩甲骨上方回旋をほとんど認めなかった.90°以降のSHリズムは反対側と変わらず、最大挙上位でのspino-humeral angleの左右差はほとんどみられなかった.<BR> 頚部、肩関節の他動可動域は制限を認めなかった.筋力は右前鋸筋や両側僧帽筋が低下していた.小胸筋、大小円筋、肩甲下筋、僧帽筋に圧痛、緊張があった.<BR> なお、症例には報告について説明をし、同意を得た.<BR>【考察】<BR> 翼状肩甲は前鋸筋麻痺の場合では前方挙上時に、僧帽筋麻痺の場合では側方挙上時に著明となる.また下垂位での肩甲骨のwingingは前鋸筋の機能不全を疑う.<BR> 本症例は受傷時、頚部伸展左側屈し、右頚部が伸張される体勢で倒れ、さらに人が上に倒れこんでいる.この時に長胸神経が過伸張され、特に前鋸筋下部筋束の障害を引き起こしたと推察される.また僧帽筋中部、下部線維の筋力低下が元々存在し、今回の受傷で肩甲骨の上方回旋力がさらに低下したため、wingingの出現につながったものと推測した.さらに、この肩甲骨上方回旋力の低下が挙上時のSHリズムの破綻を来たし、骨頭の求心力の低下を引き起こす.そのため、腱板等にはより強い収縮が必要となり、過緊張の状態になると考えられる.<BR> このため、治療としては肩甲骨周囲筋筋力訓練、SHリズムの再学習、リラクゼーションやストレッチを指導した.<BR>【まとめ】<BR> 外傷後に翼状肩甲を呈する症例を経験した.翼状肩甲の原因として神経だけでなく、軟部組織について考察を加え、検討した.原因と考えられる部分について、リハビリを施行し、良好な結果を得た.リハビリを施行することで、自然治癒の部分を早め、より動きを正常化することができたと考えられる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), C3P1411-C3P1411, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565829248
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- NII論文ID
- 130004580680
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可