重心加速度からみた手すり位置の違いによる立ち上がり動作の比較
説明
【目的】住宅改修は障害者や高齢者が安全かつ円滑に自宅で生活する上で重要である.その中でもトイレに手すりを設置する機会は多い.本研究では、立ち上がり時における手すりの有効性を検討するために、通常の立ち上がりと手すり位置の条件を変えた時の立ち上がりを重心位置の加速度変化から比較・検討したので報告する.<BR>【方法】対象は研究内容を説明し同意を得た健常男性10名(身長170.0±1.4cm、体重62.3±10.7kg、年齢21.5±3.2歳)とした.方法はMicrostone社製3軸加速度計を用い、加速度計を重心位置(臍部)に装着して立ち上がり動作時の加速度を記録した.また測定周期は5msecとした.測定は一般的なトイレ環境を想定して、便座高400mm、手すり長900mm、直径31mmのものを縦手すりとして設置し、手すりから便座中心までの幅は350mmに設定した.立ち上がり条件としては、1)手すり未使用、2)被験者が主観的に立ち上がりやすい位置(以下、主観的良位置)、3)手すりが便座から遠い位置(体幹直立位、上肢90°挙上位で手すりに届く位置:以下、遠い位置)、4)手すりが便座に近い位置(体幹直立位、肩中間位、肘90°屈曲位で手すりに届く位置:以下、近い位置)の4条件とした.また、手すりの把持高、立ち上がり速度は任意とした.加速度は上下・前後・左右の全6方向の最大値を算出し、4条件における各方向の値を多重比較検定により比較・検討した.<BR>【結果】左右方向での加速度では、右方向の加速度で1)手すり未使用より2)主観的良位置で有意に大きい結果となった(p<0.05).前後方向の加速度では、前後ともに1)手すり未使用より2)・3)・4)の各条件おいて有意に小さい結果となった(p<0.01).上下方向においてはいずれも有意差は認められなかったものの、1)手すり未使用と2)主観的良位置において、2)主観的良位置のほうが上方への加速度が大きい傾向が認められた(p=0.053).しかしながら、2)・3)・4)の3条件の間にはいずれの方向においても有意差は認められなかった.<BR>【考察】本研究では、1)手すり未使用より2)主観的良位置で前後方向への加速度が小さく、右・上方への加速度は大きくなる傾向となった.この結果より、手すりを使用することは立ち上がり初期の体幹前傾時、体幹前傾位から直立位に戻す際の重心移動の制御が容易におこなえること、また、上肢を引きつけることで右上方への推進力を容易に得られることが示唆された.加速度の観点から、重心移動の制動、立ち上がりの補助をする上でも手すり設置は有効な手段であることが再確認された.今回の研究では、手すり未使用時と手すり使用での加速度の違いを把握することは可能であったが、手すり位置による違いは、加速度という観点だけからでは違いを明らかにすることは困難であった.今後は、上肢の影響を含めより立ち上がりやすい手すり位置を検討する必要があると考える.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), E3P2184-E3P2184, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565838848
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- NII論文ID
- 130004581294
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可