上肢運動機能の定量的評価システムの実現を目指して

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  • ―I.直線と正弦波形描画課題に対する若年者と高齢者間の比較―

抄録

【はじめに】<BR> 臨床における上肢の運動機能評価法として線引き試験や指鼻試験などが挙げられる.これらは特別な機器を必要とせず簡便に行えるという利点を有しているが,一方で,判定が験者に委ねられており,験者間での情報の共有が難しいという欠点を抱えている.もし客観的・定量的な評価が可能な評価法が開発できれば験者間での情報の共有が可能となるため,リハビリテーションの効果や経過の把握に役立ち,治療の比較検討が容易になるなど臨床の場面での活用が見込まれる.そこで我々は,定量的で簡便な評価方法,ペンタブレットを用いた安価で携帯性に優れた評価システムの確立を最終的な目標として研究を続けている.今回は,1)描画課題としての直線に対する正弦波形の可能性,2)若年者と高齢者の描画方法の同異について検討した.<BR><BR>【方法】<BR> 対象は体幹および上肢に整形外科的・神経学的疾患の既往のない健常成人4名(年齢24.0 ± 1.4歳,以下若年者),健常高齢者12名(年齢74.1 ± 9.7歳,以下高齢者)とした.全ての被験者に対し本研究の説明を十分に行い同意を得た.なお,本研究は鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会にて承認されたものである.被験者にはペンタブレット(WACOM社製,Intuos3 PTZ-930)上に提示された図形(直線,正弦波形)をデジタルペンでなぞる描画課題を快適速度で行い,描画中はデジタルペン以外がタブレットと触れないように指示した.タブレットから取得した情報(座標 (x, y),筆圧)から直線,正弦波形各々についてy座標の標準偏差,筆圧の平均と標準偏差,描画時間を計算し,若年者と高齢者で比較した.統計は対応のないt検定を用い,有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【結果】<BR> 直線,正弦波形ともにy座標の標準偏差(直線:p < 0.01,正弦波形:p < 0.001)と筆圧の標準偏差(直線,正弦波形ともp < 0.05)にて若年者と高齢者の間で有意差を認めた.<BR><BR>【考察】<BR> 1)課題としての正弦波形の有効性については,直線と正弦波形で同じ項目(y座標と筆圧の標準偏差)が若年者と高齢者の間で有意差を示したことから,正弦波形も運動機能評価の課題として使用できる可能性が示唆された.2)若年者と高齢者の描画方法の同異については,筆圧,y座標ともに高齢者の標準偏差が若年者と比べて有意に大きいことから,上肢の調節能力は年齢とともに低下していると考えられる.今後は被験者数を増やすとともに上肢に障害を有する患者様との比較や二乗平均誤差など新たな評価項目の検討などを行うことによって,定量的な上肢運動機能評価システムの実現を目指していきたい.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), B3P2316-B3P2316, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205565907584
  • NII論文ID
    130004580508
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p2316.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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