脳卒中後の肩手症候群に対する感覚識別治療法の試み

DOI
  • 北裏 真己
    医療法人 進正会 寺下病院 リハビリテーション科 畿央大学 大学院 健康科学研究科
  • 今西 英夫
    医療法人 進正会 寺下病院 リハビリテーション科
  • 渕上 健
    医療法人 進正会 寺下病院 リハビリテーション科
  • 福井 祥二
    医療法人 生長会 府中病院 理学療法室
  • 栢瀬 大輔
    医療法人 生長会 府中病院 理学療法室
  • 庄本 康治
    畿央大学 健康科学部 理学療法学科

Bibliographic Information

Other Title
  • ―一事例研究デザインによる検討―

Description

【はじめに】<BR>肩手症候群は,脳卒中片麻痺患者の約30%に合併すると報告されており,国際疼痛学会ではCRPS type1(CRPS1)に分類されている.CRPS1を呈する患者は理学療法においても疼痛,関節可動域制限などが改善せず,ADL,QOL低下を引き起こしている場合が多い.Moseleyは,CRPS1に感覚刺激を与え,その特徴や場所を識別させる感覚識別治療法(SDT)を実施し,痛みが軽減したと報告している.同様の効果が脳卒中片麻痺後のCRPS1にも期待できるが,ほとんど報告されていない.そこで,本研究の目的は,脳卒中後CRPS1に対してSDTを実施し,その有効性を検証した.<BR>【症例】<BR>症例は,平成20年7月に右内包-放線冠梗塞による左片麻痺が出現し,当院へ入院した60歳女性.同年9月より左肩から上腕骨外側部に疼痛が出現し,憎悪傾向にあった.また,手背部の腫脹・皮膚変色,上腕外側部の痛覚過敏が認められた.介入時の認知機能はMMSE29点と良好で,高次脳機能障害はなかった.BRS は手指5,上肢4,表在・深部感覚は軽度鈍麻,歩行は独歩見守りレベルであった.<BR>【方法】<BR>愛護的な理学療法を行ったが,症状の軽減が認められなかったため,研究参加に同意を得た後,SDTを開始した.刺激には,直径の異なる4種類の木材を用い,刺激場所は,麻痺側上腕外側部に5ヵ所設定した.課題はランダムに設定し,木材の直径と刺激部位を識別することとした.課題正答率は80%と設定し,刺激強度は,疼痛が発生しない最大圧とした.介入時間は15分とし,週5回,2週間行った.研究プロトコルはA-B-Aデザインに従い,10日間の基礎水準期と2週間の操作導入期を設定し,各期間前後に評価を実施した.評価項目は疼痛,機能的活動,運動イメージ時間とした.疼痛はVASを用い安静時痛を測定した.機能的活動は,課題特異的なNRSを用い痛みにより阻害された活動の程度を評価した.運動イメージ時間は,写真に写った手の左右判別するMental Rotation Task(MRT)を用い回答時間を計測した.<BR>【結果】<BR>疼痛は,非介入期で増加したが,介入後は減少傾向を示した(介入10日前:19mm,介入直前:32mm,介入直後:23mm,介入10日後:16mm).課題特異的NRSは,痛みにより阻害された睡眠の項目で4から0まで減少した.麻痺側のMRT回答時間は,介入前2.46±0.90秒で,介入後は1.89±0.53秒であった. <BR>【考察】<BR>先行研究と同様に,疼痛や課題特異的NRSが減少した.よって,木材を用いたSDTが,脳卒中後上肢CRPS1に対して有効である可能性が示唆された.また,身体図式に関連するといわれる麻痺側MRT回答時間も短縮しており,SDTが身体図式の再構築に何らかの影響を与えた可能性が考えられるが,皮質領域への影響は推測段階である.Acerraは,脳卒中後CRPS1と幻肢痛の神経メカニズムは類似していると報告しており,今後はサンプル数の増大や対照群を設定して,脳卒中後の肩手症候群に対するSDTの除痛効果を検証していきたい.

Journal

Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205565942272
  • NII Article ID
    130004580545
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p3269.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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