両側の小脳・中脳・橋の多発性脳梗塞を発症し、歩行自立となった一症例
説明
【はじめに】<BR>今回、両側の小脳・中脳・橋の多発性脳梗塞を発症し、当初設定した予後予測を上回り、歩行自立となった症例を経験したので報告する.<BR>【症例及び経過】<BR>73歳男性.小脳・中脳・橋の多発性脳梗塞を発症しリハ開始.開始時は自力で寝返りもできず寝たきり状態であった.指示理解は良好.身体機能BRS右上肢III、手指IV、下肢III、左上下肢・手指全てV.MMT左上下肢4、体幹2.失調精査困難.右肩・右膝に疼痛あり.FIM44点.発症後約1ヶ月で端坐位保持できず、移乗が全介助であったため、以後約5ヶ月で車椅子自立、移乗介助量軽減を目標とした.発症後2ヶ月で手すりを用いての寝返り、端坐位や立位保持が自立したが立ち上がり動作は介助を要した.しかし、端坐位・立位保持が自立したため、車椅子レベルから歩行補助具を用いた屋内歩行自立に目標を変更した.2.5ヶ月でアームサポートはねあげ型車椅子で坐位移動による移乗が見守りとなり、BRSが右上肢・手指IV、下肢Vと改善.3ヶ月で手すりを用い起き上がり・立ち上がり・平行棒内歩行が自立.四点固定式歩行器歩行練習を開始した(以下四点歩行器).4ヶ月で手すりを用いた排泄動作が見守りで可能、BRS左右Vとなる.5.5ヶ月で終日病棟内での四点歩行器歩行移動にて排泄自立.6ヶ月で四点歩行器歩行が屋内自立となり自宅退院となる.食事、運動療法により体重は入院時68kgから退院時55kgに減量した.構音障害は軽度、MMTは左上下肢4、右上下肢3、体幹3となり、失調は鼻指鼻試験、膝打ち試験、回内・回外試験で左右において動作の緩慢さを認めたが振戦などは著明ではなかった.踵膝試験では両膝の疼痛で測定不可.FIM104点.介護保険サービスを利用し、入浴や更なる機能向上を目的にデイケアを利用しながら、自宅生活を送っている.<BR><BR>【まとめ】<BR>初期に両側片麻痺と体幹・四肢の筋緊張低下の合併、過体重、右膝の強い疼痛があった.特に両側片麻痺は端坐位自立までに2ヶ月を要したため、車椅子レベルでの低いゴール設定となった.諸家らによると小脳梗塞発症後の身体機能の改善は長期の経過をたどることが多く、脳幹梗塞による両片麻痺でも同様の報告がされている.本症例は両側片麻痺が2ヵ月以降から4ヶ月まで改善が認められ、6ヶ月で四点歩行器歩行が自立に至った.歩行自立に至るには主に麻痺・筋緊張の改善が大きく影響したと考えた.また、両麻痺の改善の段階で失調を認めなかったことも歩行自立に至った要因ではないかと考えた.更に10kg以上の体重減少により、右膝荷重時痛が軽減したことも歩行改善を認めた要因と考えた.本症例は小脳・中脳・橋の多発性脳梗塞を呈したことで、多彩な症状による特定評価の困難さを認め、長期的な改善のイメージが難しい症例であった.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), B3P3262-B3P3262, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205565957504
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- NII論文ID
- 130004580538
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可