健常者の手の巧緻パフォーマンス向上に対するミラーセラピーと運動観察治療の効果

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  • ―ランダム化比較研究―

抄録

【目的】脳卒中後の運動障害治療として,ミラーセラピーが臨床応用されつつある.この治療は,上下肢の鏡映像錯覚を利用して,運動前野領域を活動させ,患肢の運動イメージ生成を補助する有効な手段とされている(Yavuzer, 2008).我々もミラーセラピーの臨床応用を試み,幾つかの有効性に関する知見を報告してきた.また,最近では運動観察治療も運動障害治療の手段として報告されている.運動観察治療は,他者の意図的行為を観察した後に,自身で身体練習を反復実施する治療であり,脳卒中患者での有効性も報告されている(Ertelt, 2007).今回は,健常者における複雑で精緻な手の運動学習課題を使用して,ミラーセラピーと運動観察治療の効果を明らかにすることを目的とする.<BR>【方法】研究内容を説明し同意を得た右利き健常大学生30名(平均年齢22.5±2.8歳)を対象とし,参加条件としては右手でペン回しが可能なこととした.ペン回しとは,母指,示指と中指を巧緻に操作ながら,把持したペンの重心を弾いて母指を中心に回転させる課題である.本研究では左手でのペン回し課題を運動学習課題とした.30名をランダムに3つのグループに各10名ずつ割り付けた.グループは,ミラーセラピー(MT)群,運動観察(OB)群,身体練習のみ(PP)群とし,MT群とOB群は5分間の身体練習に加えて各介入を実施した.MT群では,作成したミラーボックス内の正中矢状面に鏡を設置し,右手でのペン回し鏡映像が,左手でペン回しを実施しているかのような錯覚を惹起するように設定し,5分間ミラーセラピーを実施した.OB群では,あらかじめ撮影したペン回し映像をPC上で表示し,対象者は安静座位の肢位でこの映像を5分間観察した.PP群では,5分間の左手でのペン回し練習のみとした.介入期間は10分間/日で5日間とし,測定は介入前と介入期間中の計6回実施した.測定アウトカムは,左手でのペン回し成功回数,3軸平均加速度とした.分析には二元配置分散分析を実施し,有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】ペン回し成功回数は,介入前と比較して介入1日目から順に5日目まで増加し(P<0.001),グループ間にも主効果を確認した(P<0.001).特に,MT群においてはOB群,PP群に比較して介入1日目の変化率が大きいことが観察された.3軸平均加速度にはグループ間で有意差を認めなかった.<BR>【考察】本研究の結果から,健常者における新規で巧緻な手の運動学習では,ミラーセラピーを身体練習に組み合わせることが,運動観察や身体練習のみの場合よりも効果的な方法であることが示唆された.また,介入直後の変化がMT群で大きなことから,ミラーセラピーは運動学習初期の段階で,新規運動課題の運動イメージ生成をより効率的に促進させる効果がある可能性が示唆された.今後の臨床においても,より効果的なミラーセラピーの適応を検討していく必要がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), B3P3295-B3P3295, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566037504
  • NII論文ID
    130004580570
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.b3p3295.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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