長期間の人工呼吸器管理後に生体肺移植を受けた児童に対する理学療法

DOI
  • 玉木 彰
    京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
  • 西川 徹
    京都大学医学部附属病院 リハビリテーション部
  • 庄司 剛
    京都大学大学院医学研究科 呼吸器外科学
  • 板東 徹
    京都大学大学院医学研究科 呼吸器外科学
  • 伊達 洋至
    京都大学大学院医学研究科 呼吸器外科学

抄録

【目的】現在本邦では15歳未満の臓器提供が認められていない.したがって肺移植以外に治療方法がない疾患を有する児童は,両親などからの臓器提供を受け,生体肺移植を行うことになる.レシピエントが児童の場合,手術や術後の管理は難しく,また術後の理学療法でも様々な工夫が必要となる.これまで本邦における児童に対する肺移植数は少なく,また理学療法に関する報告は殆どない.今回,7ヶ月間の人工呼吸器管理後に生体肺移植術を受けた(移植前の人工呼吸器装着期間世界最長)6歳児に対する術前・術後の理学療法を経験したので,術前・術後の経過を通じ,生体肺移植を受ける児童に対する理学療法のあり方について考察する.<BR>【症例】症例は6歳の女児(小学1年生)で,入院時の身長は113cm,体重は16kgであった(本報告については家族の承諾済み).診断名はStevens-Johnson症候群(以下,SJS),閉塞性細気管支炎.2007年6月23日より咳嗽出現し,発熱および嘔吐し始めたため病院を受診.数種類の投薬処方を受け服用,その後7月3日より顔面発疹,6日より水疱や外陰部粘膜病変が出現し,SJSと診断される.7月7日に挿管,11月13日気管切開し,以後ベンチレーター管理となる.本年5月21日に生体肺移植目的にて当院入院となり,翌日より術前理学療法を開始した.<BR>【経過】本症例に対して,術後は1日目よりICUにて呼吸理学療法を開始し,主に換気の改善と排痰,および下肢の他動的運動を行った.その後,術後15日でベッド上での座位・立位を実施,20日で車椅子による院内散歩,25日で人工呼吸器の離脱および介助歩行を開始した.術後26日目にICUより一般病棟個室へと移動し,同時に座面付歩行器を導入することで,立位感覚や下肢運動の促進を行った.また同時にリハビリ室では座位・立位バランスの再獲得を目的とし,セラピーボールを利用した座位バランス運動を遊びの中で取り入れ,体幹筋や下肢筋の強化を行った.遊びの要素を取り入れた様々な運動を継続した結果,術後3ヶ月における6MWDは290m,4ヶ月後には357mまで向上し,自宅退院した.<BR>【考察】本症例は7ヶ月という長期にわたり人工呼吸器管理下で生活し,立位・歩行を行っていなかったことから,ADLが自立し,学校生活へ復帰するためには下肢機能の向上が重要な課題であった.肺移植のレシピエントが児童の場合,術後においては通常の理学療法プログラムを実施するのは難しい.今回は術後の管理に留意しながら人工呼吸器離脱後の早期より立位感覚を再獲得させ,下肢運動を促したこと,さらにバランス練習によって座位・立位が安定し,活動性が増したしたことが早期歩行能力の獲得につながり,6MWDの増加が得られたものと考えられた.したがって,児童に対する肺移植後の理学療法では,術後の呼吸管理に加え,症例に合わせた独自のプログラムを作成し,身体機能を高めていくことが重要である.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), D3P3537-D3P3537, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566168704
  • NII論文ID
    130004581193
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.d3p3537.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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