運動学習過程と筋機能特異性に関わる皮質運動野の興奮性変化

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抄録

【目的】運動学習過程で大脳皮質運動野は極めて柔軟な可塑性を示すことはよく知られている.しかし、運動学習効率と各筋の特異性に関わる運動野の詳細な知見は得られていない.今回、トラッキング課題による運動学習過程が皮質運動野の興奮性に及ぼす影響を学習経過と筋機能特異性を中心に経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を指標に検討した.<BR>【方法】対象は健常成人13名(年齢21-30歳)とした.被験者に実験の目的を十分に説明し,書面による同意を得て行った.なお、所属大学の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>被検者は安楽な椅子座位で正面のコンピュータモニター上に提示指標が示される.提示波形は3秒間のrest、4秒間に渡る1つの正弦波形、3秒間の一つの三角波形から構成される(全10秒).運動課題はこの提示指標に対して机上のフォーストランスデューサーを母指と示指でピンチし、モニター上に同期して表れるフォースと連動したドット(ドット)を提示指標にできるだけ正確にあわせることとした.提示指標の最大出力は最大ピンチ力の30%程度とし、ドットはモニターの左から右へ10秒間でsweepするものとした.練習課題は全部で7セッションを行った.1セッションは10回の試行から成る.練習課題の前にcontrol課題としてテスト試行(test)を5回行い、各練習セッション後5回のテスト試行を行うものとした.練習課題は提示指標とドットをリアルタイムに見ることができる.しかし、testではsweep開始から3秒後に提示指標とドットが消失し遂行状況は視覚では捕えられなくなる.TMSはこの指標が消失する時点に同期して行われた.MEPは、第1背側骨間筋(FDI)、母指球筋(thenar)、橈側手根屈筋(FCR),そして橈側手根伸筋(ECR)の4筋からTMS(Magstim社製;Magstim-200)によるMEPを同時に導出した.MEP記録は刺激強度をMEP閾値の1.1~1.3倍,各testでMEPを5回記録した.また、各4筋の5%最大ピンチ時の筋活動量(RMS)、提示指標と実施軌道の誤差面積を測定した.データ処理はいずれもcontrolに対する比を算出し分析検討(ANOVA, post hoc test: 5%水準)を行った.<BR>【結果と考察】誤差面積と各筋RMSは、controlと比較すると、各訓練セッションで有意に減少した(P<0.05).FCRとECRは練習後、MEPの変化は認められないものの、7セッション後ではFDIの有意な増加が示された(P<0.05).しかし、thenarでは7セッション後に有意な減少を示した(P<0.05).以上の結果、パフォーマンスの向上に併せて大脳皮質運動野の運動学習による変化は全般の一様な変化ではなく、その学習課題に用いられる各筋の特異性に依存していることが示唆された.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2008 (0), A3P2129-A3P2129, 2009

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566498688
  • NII論文ID
    130004580155
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.a3p2129.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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