健常高齢者を対象としたTimed up and Go testにおける左右の廻り方が結果に与える影響
説明
【目的】Timed Up & Go Test(以下、TUG)はMathiasらやPodsiadloらによって開発された高齢者のバランス能力の評価方法の一つで、現在では高齢者のみならず脳卒中片麻痺患者や骨関節疾患患者の複合的な身体機能の評価方法として国際的に用いられている.TUGの結果は片麻痺の重症度や日常生活自立度の点数と共に院内の歩行自立の判定を行うための指標として用いられることもある.しかし、TUGの測定方法に左右の廻り方に関する規定はされておらず、伊藤らは片麻痺患者において非麻痺側廻りが有意に遅くなることを報告している.このように測定する対象によっては左右の廻り方によって結果が異なることが予測された.よって今回、健常高齢者を対象に左右の廻り方の違いが結果に与える影響を明らかにすることを目的に本研究を行った.<BR>【方法】対象は新潟市・小千谷市近郊に在住で、いずれも要介護の認定を受けておらず、地域の介護予防事業に参加している66歳~80歳の健常高齢者30名(71.6±3.7歳、男性11名、女性19名)とした.評価項目はTUG、膝関節伸展筋力でこれらの結果を統計学的に解析した.なおすべての対象者からインフォームドコンセントを得て実施した.<BR>【結果】TUGは右廻りが男性5.24±0.62秒、女性5.72±0.84秒、全体では5.55±0.85秒、左廻りが男性5.23±0.72秒、女性5.55±0.84秒、全体では5.43±0.80秒であった.膝関節伸展筋力は右側が男性1.61±0.82Nm/Kg、女性1.08±0.36Nm/Kg、全体では1.28±0.62Nm/Kg、左側が男性1.49±0.57Nm/Kg、女性0.87±0.26Nm/Kg、全体では1.10±0.50Nm/Kgであった.TUGの廻り方、膝関節伸展筋力とも女性、全体において有意な左右差が認められた(p<0.05).膝関節伸展筋力とTUGには有意な相関関係は認められなかった.<BR>【考察】TUGは高齢者のバランス能力を評価する目的で開発された評価方法であるが、左右の廻り方に関しての規定はなされていない.本研究でも明らかとなったように、健常高齢者であっても潜在的に左右の下肢筋力に差が生じていることは少なくなく、これらの問題がTUGに与える影響を考慮する必要がある.本結果では下肢筋力とTUGとの間に有意な相関関係は示されなかったが、伊藤らや梅村ら(第44回日本理学療法学術大会にて発表予定)の報告のように、廻る側とは反対側の下肢機能の低下や筋力の弱化が速度を遅くさせる要因となることが示唆された.これらの結果はTUGを「起立・歩行・回転・歩行・着座」の5つの運動相に分けた時、回転相での影響が大きいことが考えられ、今後は運動相ごとの詳細な分析が必要であると考えられる.また、TUGを測定する際には、下肢筋力や荷重時の痛みの有無、片脚立位時間など、荷重時の下肢機能評価も併せて行った上で左右両方の廻り方を測定することが望ましいと考える.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), A3P2058-A3P2058, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205566612480
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- NII論文ID
- 130004580085
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可