言語的介入が痛み耐性を変化させるか?

Description

【目的】<BR> 痛みは不快を伴う情動体験であり,感覚的側面だけでなく感情・情動的側面が含まれる.個人の主観的経験や痛みの発生状況によって,知覚される痛みの性質や強さ,痛みに対する耐性などが変化する.物理的に同程度の刺激に対しても,痛みの知覚には個体差が存在している.Koyamaらは,実験心理学と大脳生理学的検証により,来るべき痛みが小さいと思うことが実際の痛み知覚を減少させ,痛みに関連する脳活動を減少することを確認し,臨床家の言葉や態度が効果的な鎮痛方法となる可能性を報告している.<BR> 今回,我々は健常者に対する電気刺激を使用した痛み耐性実験を計画し,実験者による電気刺激状況の言語的フィードバックが主観的な痛みに変化を及ぼすかどうかを検証したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 被験者は本学学生の健常成人10名(平均年齢21.7±0.8歳)とし,全被験者には本研究について説明し,文書にて同意を得た.<BR> 痛み刺激には電気刺激装置(Omnistim 500,Accelerated Care Plus社製)を使用した.測定部位は非利き手の示指先端とし,刺激強度は10Hzの干渉電流を一定の速度で徐々に上昇させ,被験者が耐え得る最大の痛みまでとした.<BR> 言語フィードバックとして,実際の電気刺激強度を伝えながら刺激を加えていく条件をcorrect feedback(以下,CF)とし,実際より低い強度を伝えながら刺激を加えていく条件をsham feedback(以下,SF)とした.<BR> 測定手順は,被験者は背もたれのある椅子に安静座位を保持し,最初の10回は対照条件として言語フィードバックを与えずに実施した.続いてCFおよびSFをランダムな順序で伝えながら刺激を加え,5回ずつ計10回実施した.各測定間には1分の間隔をあけた.測定項目は,対照条件およびCF,SF時に被験者が訴えた最大痛み出現時における電気刺激強度およびVisual Analogue Scale(以下,VAS)とし,3条件における各5回の平均値を算出した.<BR> 統計処理には,Wilcoxonの符号付き順位検定を行い,Bonferroniの補正に従い有意水準を0.017未満(0.05/3=0.017)とした.<BR><BR>【結果】<BR> 電気刺激強度では,対照条件と比較してCF(p=0.009)とSF(p=0.005)にそれぞれ有意な増加を認めた.また,CFに比較してSFでも有意な電気刺激強度の増加を認めた(p=0.008).<BR> 次にVASでは,対照条件とCFおよびSFに有意差は認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果から,電気刺激によって生じる痛み知覚強度において,適切な言語フィードバックを与えた条件と比較し,実際の強度よりも低く与えることによってさらに痛み耐性の上昇が認められた.これは,痛みにおける主観的要素の影響を示唆していると考えられる.したがって,臨床上,痛みの評価および治療には主観的要素を考慮する必要が示唆された.

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566643712
  • NII Article ID
    130004580102
  • DOI
    10.14900/cjpt.2008.0.a3p2075.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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