足部アライメントが歩行時の足圧中心の移動に及ぼす影響
説明
【目的】足部は多くの関節で構成されており、身体の支持と歩行時の推進を担っている。臨床において、足部アーチの低下を示す例では歩行の立脚期に荷重が内側へ移動することが観察される。園部ら(1994)は、片脚立位において前足部外反、後足部外反の肢位で重心が内側に位置していたと報告している。また、三秋ら(2007)は足部アーチの低下を示す例では片脚立位で足圧中心(以下、COP)が内側に移行したとし、さらに田中ら(2003)は、後足部外反を示す例では前傾立位でCOPがより前方に位置していたと報告している。足部は機能的に後足部、中足部、前足部に分けられ、それぞれが歩行においてCOPの移動に影響を及ぼすと考えられる。しかし、後足部、中足部、前足部の各足部アライメントが歩行時のCOPの移動に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究の目的は後足部、中足部、前足部の各足部アライメントが、歩行の立脚期におけるCOPの移動に及ぼす影響について検討することである。<BR><BR>【方法】対象は、下肢に既往のない健常女性20名(年齢20.0±0.75歳、身長159.2±5.67cm、体重54.6±12.6kg)で、計測肢は利き足とした。<BR>(1)足部アライメント計測:後足部アライメントは踵骨傾斜角(踵骨と床からの垂線とのなす角)を計測し、床面からの垂線を基準に外反方向を正、内反方向を負とした。中足部アライメントはアーチ高率を舟状骨高と足長から算出した。前足部アライメントは第1中足骨底屈角(床面と第1中足骨長軸とのなす角)を計測した。いずれも荷重位(片脚立位)、非荷重位(座位)の肢位で計測した。<BR>(2)足圧分布の計測:運動課題は10mの自然歩行とし、足圧分布測定システム(F-scan:Tekscan社製)を用いて立脚期の足圧分布を測定した。立脚期の荷重圧グラフより1)踵接地から第1峰、2)第1峰から谷、3)谷から第2峰、4)第2峰から爪先離地までの4相に分け、各相のCOPの移動距離を計測した。なお、COP位置の算出は、前方へは踵部最後部からの距離、側方へは最内側部からの距離とし、足長および足幅で標準化した。各アライメントについて三分位数を用いて上位および下位3分の1の被験者を抽出した。中足部、前足部アライメントについては上位3分の1を大きい群、下位3分の1を小さい群の2群に分類した。同様に後足部は上位3分の1を外反群、下位3分の1を内反群の2群に分類した。立脚期各相のCOPの位置および移動距離を、各足部アライメントの大きい群(外反群)、小さい群(内反群)の2群で比較した。統計学的検定には、Mann-WhitneyのU検定を使用し有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】被験者には事前に本研究の説明を行い、協力の同意を得た。<BR><BR>【結果】(1) COPの位置:後足部、中足部、前足部とも2群間で有意な差はなかった。(2)COPの移動距離:後足部において外反群は内反群に比較して第3相で有意に内側に偏位した(p=0.042)。中足部では、アーチ高率が小さい群が大きい群に比較して第3相で有意に内側に偏位した(P=0.006)。さらに前足部は、第1中足骨底屈角の小さい群が大きい群に比較して、第2相および第3相で有意に内側に偏位した(P=0.014)。<BR><BR>【考察】立脚期の荷重圧グラフは、概ね床反力Z 成分に相当するため、それぞれ第1相を立脚初期、第2相を立脚中期前半、第3相を立脚中期後半、第4相を立脚後期ととらえて考察した。踵骨傾斜角の外反群は内反群に比較して立脚中期後半でCOPが内側に偏位した。これは、距骨下関節の回内に連動して起こる横足根関節の回内運動が大きくなったためと考えられた。また、アーチ高率が小さい群でも横足根関節は回内するため、立脚中期後半でCOPがより内側へ移動したと考えられた。さらに第1中足骨底屈角の小さい群でCOPが内側に移動したのは、第1中足骨底屈角が大きい群に比較して立脚中期に認められる第1列の底屈回内運動が大きかったためと考えられた。今回の対象は踵骨傾斜角が全て内反位を呈したため、立脚初期のCOPの移動については踵骨傾斜角が外反位を示す群を加えて今後さらに検討を進める必要がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】臨床において、下肢障害の誘因となる足部アライメントの異常に対して、足底挿板やテーピングなど足部からのアプローチをすることは少なくない。今回の結果より、立脚中期のCOPの移動は後足部、中足部、および前足部のアライメントが影響していると考えられた。各足部アライメントを考慮した足底挿板やテーピングにより、立脚中期における過度のCOPの内側移動を抑制できる可能性が示唆された。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1029-A4P1029, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205566880768
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- NII論文ID
- 130004581778
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可