空気圧による免荷トレッドミル歩行における血流量変化について

DOI
  • 土本 浩司
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻運動機能解析学分野
  • 黒木 裕士
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻運動機能解析学分野
  • 鳥井 勇輔
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻運動機能解析学分野
  • 井上 裕之
    京都大学医学部人間健康科学科
  • 三浦 美樹子
    京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻運動機能解析学分野
  • 家城 弘
    グンゼ株式会社研究開発センター
  • 南木 学
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部
  • 柿木 良介
    京都大学医学部附属病院リハビリテーション部

抄録

【目的】部分荷重歩行には、水中歩行、サスペンション歩行および松葉杖歩行などがあるが、我々は空気圧による加圧を用いて身体を浮き上がらせ下肢にかかる荷重を減じた状態で歩くという着想から、2000年に加圧式部分荷重トレッドミル歩行装置を開発した。Cutukらは2006年に我々と同様の原理を用いたトレッドミルを使って6.7 Kpa (50mmHg) の加圧下の歩行中に胸骨部と前頭部の血流測定を行い、心臓循環器系は安全であることを証明した。しかし下肢の血流測定はまだ報告していない。空気圧による加圧を行うと下肢表層の末梢血管内径が減少し、血流が変化することが予測される。そこで今回、加圧下の歩行における下肢血流に変化があるか明確にする目的で被験者数名を対象に測定を実施した。加えて血圧、心拍数、歩数に変化があるか測定した。<BR>【方法】医学部とは利害関係のない健常者被験者5名以内を大学内のポスターによりリクルートした。これまで運動中に意識消失、呼吸停止、過呼吸、心肺停止した既往を持つ者は除外した。未成年者も除外した。その結果4名が該当した。被験者には加圧なし、5Kpa(5キロパスカル、水中約50cmで受ける圧力に相当する)加圧、6.7Kpa(水中約67cmで受ける圧力に相当する)加圧の3条件でトレッドミル歩行を行わせ、血流計(CDF2000)を用いて下腿部、大腿部および前頭部の血流測定を行った。歩行速度は時速4kmとした。歩行時間は3分とし、最後の1分間を測定した。血圧、心拍数、歩数、歩行率も測定した。血流測定プローブは1ヶ所しか測定できないので、下腿部、大腿部および頭部の結果を得るため約3分の休憩をはさんで測定を3回繰り返した。1名は欠損データがあったので除外し残り3名の測定値を比較した。比較の統計処理には、3加圧条件と被験者をそれぞれ要因とする、繰り返しのある2元配置分散分析法を用いた。危険率は5%以下を有意とした。被験者に差があることを前提とし、3加圧条件に有意差があるかどうか検討した。<BR>【説明と同意】所属大学の倫理委員会の承認を得て、病院長の許可のもとに測定を行った。不測の事態に備え、看護部と救急部の了解を得た。被検者には事前に十分な説明を行い、書面上で同意を得た。<BR>【結果】5Kpaで体重は62%免荷(38%荷重)、6.7Kpaで75%免荷(25%荷重)であった。下腿部測定時の加圧なし、5Kpa加圧、6.7Kpa加圧の3条件の歩行では最高血圧はそれぞれ98.50±16.26(平均値±標準偏差)、97.00±14.14、92.50±17.68 mmHgであり最低血圧はそれぞれ47.00±4.24、57.50±10.61、60.00±2.83 mmHgであり、心拍数はそれぞれ96.50±23.33、82.50±21.92、97.50±19.09拍/分であり、歩数はそれぞれ124.5±10.61、119±9.9、115.5±14.85歩/分であった。大腿部測定時の最高血圧はそれぞれ97.00±4.24、100.00±7.07、101.00±14.14 mmHgであり最低血圧はそれぞれ55.00±0、59.50±3.54、51.00±4.24 mmHgであり、心拍数はそれぞれ93.50±21.92、90.50±20.51、88.50±23.33拍/分であり、歩数はそれぞれ125±9.90、122.5±12.02、120.00±16.97歩/分であった。頭部測定時の最高血圧はそれぞれ99.00±12.73、97.00±5.66、90.00±4.24 mmHgであり最低血圧はそれぞれ52.50±14.85、65.50±6.36、51±2.83 mmHgであり心拍数はそれぞれ96.50±17.68、92.00±12.73、49.50±54.45拍/分であり、歩数はそれぞれ125.50±9.19、125.00±12.73、123.50±12.02歩/分であった。これら心拍数、歩数および歩行率に3加圧条件の差は見られなかった。下退部の血流は加圧なし、5Kpa加圧、6.7Kpa加圧歩行ではそれぞれ、44.27±5.11(平均±標準偏差)、39.86±5.78、34.14±3.19 ml/minであった。大腿部の血流はそれぞれ、60.35±5.02、52.80±1.88、47.59±4.97 ml/minであった。前頭部の血流はそれぞれ、14.14±5.11、13.06±5.44、13.20±6.06 ml/minであった。3条件の歩行間にいずれも差を認めた(p<0.001)。交互作用が有意であった。<BR>【考察】下退部の血流は、加圧なしと比べて5Kpa加圧では10%減少、6.7Kpa加圧では23%減少し、大腿部の血流はそれぞれ13%減少、21%減少したが、前頭部の血流はそれぞれ8%減少、7%減少であったので、血流減少は加圧を受ける下腿部と大腿部で大きくなく、加圧を受けない前頭部での減少は軽微である。ただし交互作用を認めたために、加圧条件の差を正確に検定するには至らなかった。したがって今回の結果のみで結論を出すことはできないが、阻止がなく一定の血流が確保されているので加圧下の歩行は安全である可能性が高いと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】空気圧を利用した新しい部分荷重歩行の研究は新たな研究領域・治療領域となる可能性がある。安全で正確な部分荷重歩行の研究は意義あることなので、被験者数を増やし今後さらなる研究を行いたい。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1048-A4P1048, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205566913664
  • NII論文ID
    130004581797
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1048.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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