トレッドミルを用いた上り勾配歩行
書誌事項
- タイトル別名
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- 各相の下肢筋活動の変化
説明
【目的】<BR>日常生活の中では、平地だけでなく坂道や段差のある様々な条件下で歩行する必要がある。実用歩行を指導する際には、その運動学的特長を明確に把握する必要がある。木山らの報告によると、平地歩行に比べて上り勾配歩行では大殿筋、大腿直筋、内側広筋、大腿二頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋の筋活動は増加する。このように上り勾配歩行についての下肢筋活動の研究はあるが、一歩行周期の下肢筋活動を各相に分けての報告はない。各相に分類することで、上り勾配歩行の特徴をより明確にできると考える。本研究の目的は、上り勾配角度の変化と下肢筋活動の関係について各相に分けて検討することを目的とした。<BR>【方法】<BR>歩行はトレッドミル上で行い、歩行速度4.0km/hとした。上り勾配角度0°,3°,6°,9°の条件で筋電図とフットスイッチの記録を行った。筋電図の電極は左下肢の大殿筋、大腿二頭筋長頭、大腿直筋、内側広筋、腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋に電極を貼付し、歩行時の立脚相及び遊脚相を知る目的で左足底面前後にフットスイッチを貼付した。被験者には各条件での十分な練習を行わせ、その後測定開始とした。各条件での歩行時間は2分間とし、データ収集は終了前の30秒間とした。0°における各相の筋活動量を100%として、勾配角度による各筋活動量の割合を算出した。統計学的分析には一元配置分散分析を用い、事後検定としてTurkeyの多重比較を用いた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象は整形外科的疾患の既往のない健常男性12名(平均年齢22.2±2.0歳、平均身長170.3±6.3cm、平均体重62.7±6.1kg)とした。研究の主旨を説明後、紙面での承諾を得た。<BR>【結果】<BR>一元配置分散分析の結果、立脚中期の大殿筋、内側広筋、立脚後期の腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋では有意な差(p<0.01)がみられ、勾配角度の上昇に伴って筋活動量が増加した。その他では内側広筋の立脚前期・立脚後期、腓腹筋の立脚前期・立脚中期・遊脚期、ヒラメ筋の立脚中期、前脛骨筋の遊脚期で有意な差(p<0.05)を示した。<BR>【考察】<BR>立脚中期では上り勾配角度の増大に伴い、大殿筋・内側広筋の筋活動が有意に増加した。歩行の観察から、上り勾配角度が増大すると、足底接地時の膝関節屈曲角度が増大する。膝関節屈曲角度の増大により、重心線から膝関節までの距離が延長されモーメントアームが長くなる。そのため、トレッドミル歩行では重心が下方へ落下するのを防ぐために大殿筋や内側広筋の活動量が増加すると考えた。さらに、膝関節屈曲角度が増大により、立脚中期での膝関節伸展運動範囲が拡大することも内側広筋の筋活動量増加に影響を及ぼしたと考える。立脚後期では上り勾配角度の増大に伴い、腓腹筋・ヒラメ筋の筋活動が有意に増加した。腓腹筋・ヒラメ筋でも前述したように、勾配歩行では下方への重心落下を防ぐために筋活動量の増加が認められたと考えた。前脛骨筋の筋活動量増加については、立脚後期の足関節主動筋である腓腹筋・ヒラメ筋が上り勾配角度の増大に依存して筋活動量が増加したため、その活動に拮抗して働くことで足関節の安定性向上に寄与したと考える。また、前遊脚期には上り勾配角度の増大により足関節底屈位から背屈方向への運動の切り替えを行う活動性が増し、筋活動量が増大したと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>今回の研究から、立脚中期では大殿筋、内側広筋、立脚後期では腓腹筋、ヒラメ筋、前脛骨筋が勾配角度に依存して筋活動量が増加することが分かった。安定した勾配歩行を実現するためには上記の筋に平地歩行以上の筋活動が求められる。臨床場面で勾配歩行について指導する際には各相に求められる筋収縮を促す必要がある。今回の研究では勾配歩行での筋活動の増加と関節角度の変化を証明することができない。今後の課題としては、勾配歩行における下肢筋活動量と関節角度を並行して測定し、検証する必要があると考える。
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), A4P1047-A4P1047, 2010
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205566916864
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- NII論文ID
- 130004581796
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可