歩行の予備能は高齢者の転倒と密接な関係がある

説明

【目的】高齢者では様々な機能の予備能の低下が生じるが,予備能を示す適切な臨床指標ならびに転倒との関係は検証されていない.我々は,高齢者における生活機能の重要な要素の1つである歩行機能に注目し,歩行の予備能を示す臨床指標を提唱した.本研究では,施設入所高齢者の歩行の予備能と転倒との関連性を明らかにするとともに,転倒を予測する危険因子となるかどうかを検証することを目的とした.<BR>【方法】対象は施設入所高齢者119人(平均年齢81.7±8.0歳,男性53人,女性66人)であった.対象者には事前に研究の概要を口頭および書面にて説明し,書面にて本人の同意を得た.調査項目は,応用歩行機能検査としてTimed “Up & Go” Test(TUG)を用い,至適速度(TUGcom)と最大速度(TUGmax)にてそれぞれ2回繰り返して計測した.予備能の指標(TUG-Reserve: TUG-R)は,TUGmaxに対するTUGcomとTUGmaxの差の割合を算出した(TUG-R=[(TUGcom-TUGmax)/TUGmax]*100/ TUGmax).その他,姿勢バランスの検査としてFunctional Balance Scale(FBS),ADLの指標としてBarthel Index(BI),Life-Space Assessment(LSA)を検査・調査した.統計学的解析は,過去1年間の転倒の有無を調査した結果から全対象者を非転倒群と転倒群に群別し,各指標についてt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した.また,過去1年間の転倒経験の有無を従属変数,機能・活動状態に関する各指標およびBMI・歩行補助具の使用を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)を年齢・性別・疾病状態を調整して実施した.さらに,転倒の有無と関連の認められた項目について,ROC曲線から感度と特異度を算出し,感度と特異度が最も高い点をもとに転倒の危険性に関連するカットオフ値を求めた.<BR>【結果および考察】全対象者のうち,過去1年間で転倒履歴があった人が28人(23.5%)いた.転倒群は非転倒群に比べてFBS,TUGcom,TUGmax,BI,LSAおよびTUG-Rの成績が有意に低かった.多重ロジスティック回帰分析の結果,転倒の有無に対してTUG-Rのみが有意に関連し,TUG-Rが約1.1未満では転倒の危険が高いと推察された(感度85.7%,特異度83.5%).<BR>【結語】TUG-Rは高齢者の転倒と密接に関連する指標であり,転倒の予防的介入における包括的な評価において有用であると考えられた.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), E1176-E1176, 2008

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567088384
  • NII論文ID
    130005016131
  • DOI
    10.14900/cjpt.2007.0.e1176.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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