知覚神経伝導速度に与える神経周囲温度の影響

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抄録

【目的】<BR> 知覚神経伝導速度(SCV)は皮膚温に影響され易く、温度低下による速度変化は神経細胞膜の興奮によることが報告されている。しかし、温度変化とSCVの回復過程を経時的に研究した報告がなく、第41回PT学術集会において20°C以下の冷却刺激で皮膚温が上昇してもSCVが殆ど回復しないことを報告した。本研究は冷却によるSCV遅延の原因を分析することを目的に、冷却後の深部温や皮膚血流の経時的変化を検討し、興味のある知見を得たので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は後脛骨神経伝導ブロックがない健常成人10名(平均:21.1歳、159.5cm、53.5kg)で、既に実験方法と目的を説明して同意を得ている。実験は、室温23°Cで右膝関節30°屈曲、足関節0°中間位の腹臥位とし、右下腿を氷で30分間冷却した。SCVの測定は逆行性SCV測定方法に準じ、遠位刺激をアキレス腱と内果間、近位刺激を膝窩上3cmとした。記録電極を母趾に貼付した。皮膚温および深部温測定はテルモCTM-205を用いて腓腹筋中央で計測した。同様に皮膚血流はレーザー血流計ALF21を貼付した。統計は開始前、直後から30分後まで5分毎、45分後と60分後の計10回の皮膚温、深部温、血流、潜時、SCVをANOVAで処理し、差の検定は有意水準5%で行った。<BR>【結果】<BR> 皮膚温(°C)平均は開始前32.0、直後15.2、5分後23.5、10分後25.8、15分後以降27.0から60分後29.7と緩徐な上昇がみられ、開始前、直後、5分後から終了時までの間にそれぞれ有意差(p<0.05)がみられた。深部温(°C)平均は開始前34.1、直後33.5、5分以降終了時まで31.0~33.0と変化は少なかった。皮膚血流(ml/min/100g)の平均は深部温と同様に、開始前2.0、直後から終了時まで1.1~2.2の間で推移したが、有意差はみられなかった。<BR> 氷と接触しない部位にある遠位刺激部から母趾記録電極までの潜時(ms)の平均は開始前6.0、直後から終了時まで6.2~6.5と変化は少なかった。潜時導出の電極間距離349±17.5mmを潜時で除したSCV(m/s)の平均は開始前49.5、直後41.2、5分以降終了まで40.1~42.2で推移し、開始前と直後から終了時までの間でそれぞれ有意差(p<0.05)が認められた。<BR>【考察】<BR> 皮膚温は実験直後から終了時まで緩徐に上昇したが、深部温と皮膚血流は冷却による影響は殆どなかった。SCVは開始前に比較して直後で8.3m/sの速度低下を示し、終了時点でも速度回復は見られなかった。これは、皮膚温と神経周囲温度の相関があるとするBaysalらの研究が矛盾していることを強く支持しており、SCVの遅延がNaチャンネル開閉速度の遅延か、あるいはA型Kチャンネルの活性が皮膚温変化によって持続する可能性の高いことが証明されたと考えられる。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), A0586-A0586, 2007

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報

  • CRID
    1390001205567193216
  • NII論文ID
    130005013436
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.a0586.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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