プッシュアップ動作での主動作筋の検討

説明

【目的】プッシュアップ動作は脊髄損傷患者の重心の垂直方向の移動手段として欠かせない動作であるが、到達レベルにはかなりのばらつきがあるとされる。我々は先行研究としてプッシュアップ動作時の肘関節及び肩関節の固定作用機構に着目し、三角筋前部線維、上腕二頭筋、上腕三頭筋の%MVCを計測した。すなわち、座面に固定させた手掌から生じる床反力が動作の回転中心となる肩関節でしっかりと固定される事が、効率良い動作獲得に不可欠と考えた。結果、指先を腹側(medial ventral;以下MV)、外側(medial lateral;ML)、背側(medial dorsal;MD)に向けた肢位のいずれにおいても三角筋前部線維が優位に働き、またMDにおいて上腕二頭筋が優位に働くという事を確認した。以上をふまえ、本研究ではすでに測定した3筋の固定作用に加え、回転作用に関わると思われる体幹筋を含めプッシュアップ動作における主動作筋及び協同作用筋の検討を目的とした。<BR><BR>【方法】被験者は26名(平均年齢30.3±5.7)の健常成人とし、三角筋(前部線維)、上腕二頭筋、上腕三頭筋、広背筋、腹直筋、脊柱起立筋の%MVCを算出した。動作開始姿勢は長坐位にて肘関節軽度屈曲、手関節は大転子より5cm外側とし、手指はMV、ML、MDの3方向とした。開始姿勢を1秒間、終了姿勢を3秒間保持する事とし、動作速度は自由速度とした。統計処理は一元配置分散分析(Bonferoni/Dunn法)により手指3方向における筋活動及び同一筋の筋活動の比較検討を行なった。<BR><BR>【結果及び考察】全ての被検筋において、手指3方向ごとの筋活動において有意差は認められなかった。次に手指3方向ごとの筋活動においては、3姿勢全てにおいて腹直筋は広背筋以外の筋と有意差を認めた。また広背筋は全ての姿勢において、三角筋、脊柱起立筋との間で有意差を認め、MV、MLでは上腕二頭筋、ML、MDでは上腕三頭筋との間に有意差を認めた。以上の結果からは、手指3方向における筋活動に変化が生じるであろうという我々の仮説は棄却された。しかし姿勢に関わらず、腹直筋と広背筋が主動作筋として機能し、その他の筋群がほとんど同レベルでの筋活動を行ない、肘関節及び肩関節周囲の固定作用を行なっているであろう事が推察できた。ただし今回の被験者は健常成人であり、腹直筋、広背筋といった支配髄節レベルが広い筋群の筋力回復が不十分な事が多い脊髄損傷患者においては、この方法でのプッシュアップ動作が難しい事が推察される。よって我々は個々のケースに応じ、重心の垂直方向移動を可能にするべく、残存筋の把握、姿勢の選択等を行なわなければならない。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2006 (0), A0620-A0620, 2007

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567290368
  • NII論文ID
    130005013470
  • DOI
    10.14900/cjpt.2006.0.a0620.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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