多方向リーチ動作評価の信頼性の検討

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抄録

【はじめに】リーチテストはDuncan,Brauer,Newtonらが前方,側方,体幹回旋を伴わない前後左右方向への方法を提案し臨床応用が行われている.しかし体幹回旋を伴う側方および後方へのリーチ動作の検討は未だない.そこでFunctional Reach Test(以下,FRT)に加え側方,体幹回旋を伴う側方および後方へのリーチ動作評価(Diagonal Multi-direction Reach Test;DMRT)に関する検査者間および検査者内信頼性とFRTとの妥当性の検討を行ったので報告する.<BR>【目的】今回の研究はDMRTの検査者内信頼性および検査者間信頼性の検討とFRTとその他の方向へのリーチとの連関を確かめる目的で実施した.<BR>【方法】DuncanらのFRTに加え,側方,体幹回旋を伴う側方・後方へのリーチ距離(Reach Distance;RD)を測定した. なおFRT以外の開始肢位について側方は肩関節を外転し床面と平行になるよう上肢を挙上した肢位,体幹回旋しての側方はFRT開始肢位から体軸を傾けずにリーチ方向に最大限体幹回旋させた肢位,体幹回旋しての後方は側方へのリーチの開始肢位から使用手側に体軸を傾けずに最大限体幹回旋させた肢位とした.検査者は3名, 今回は各方向へのリーチ動作の特性を検討するために対象者を整形外科的疾患や神経疾患等の既往がない健常男性9名(平均39.8歳,24~60歳)とした.手順として被験者は足部内側縁を10cm離した立位をとり被験者の肩峰の高さで三脚上に床面と平行に設置してある定規にそって前方,側方,体幹を回旋しての側方および後方へ最大努力でのリーチ動作を各4回連続して行った.検査者は被験者の第2中手骨骨頭の位置に直角定規をあて開始肢位および測定肢位における位置を測定した.開始肢位と測定肢位との差分をRDとした.統計処理は検査者内および検査者間信頼性を級内相関係数(以下,ICC)にて検討した.また各方向との相関をSpeamanの相関係数(有意確率p<0.01)を用いて検討した.<BR>【説明と同意】対象者は本研究の概要を説明した後,文書で同意を得た.説明として本研究の意義,目的,研究参加に伴う利益および不利益,研究に関わる個人情報の保護等について行った.なお本研究は学校法人こおりやま東都学園研究倫理委員会において認証されている.<BR>【結果】LandisらによるICC判定基準で検査者内信頼性ICC(1.4)は左手左方のみ0.79~0.93とmoderateとされる値が含まれたが,他の方向については0.84~0.98とalmost perfectとの値が示された.検査者間信頼性:ICC(2.3)は全ての方向において0.81~0.93とalmost perfectとの値が示された. FRTと側方の相関は左手前方‐右手右方が0.40と低い相関であったが他との相関は0.55~0.68と中等度であった.FRTと体幹回旋しての側方および体幹回旋しての後方との相関は0.41~0.73と中等度から強度であった.<BR>【考察】本研究においてDMRTは検査者内および検査者間信頼性ともに高い結果が得られたことから測定法として成立することが示された.またFRTとその他の方向へのRDに相関関係がみられたことから健常成人においてはFRTが小さければ他方向のRDも小さいことが示された.このことはDMRTがFRTと同様に転倒予測指標として成立する可能性を示している. DuncanらはFRTが12.5cmより低値となるほど転倒傾向が高くなるとしている.しかし転倒は全ての方向で起こり得る. Newtonらは体幹回旋を伴わないMulti-Directional Reach Testの報告においてリーチの各方向に独特の側面があることを示し測定方向を一つに絞ることに疑問を呈している.日常生活動作では体幹回旋を伴ったバランス制御を要求される場面が多く見られる. 虚弱高齢者や左右の運動性に差がある片麻痺患者等ではFRTのみではなく多くの運動面上でのRDを測定する必要があると考えられ,MDRTを測定することによりFRTより詳細な転倒傾向を知り得る可能性があると思われる.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は前方のみではなく多くの姿勢・運動面上の到達距離を測定する方法で転倒方向や転倒の質の研究に役立つと考えられる.今回はPreliminary studyとして信頼性・妥当性の検討を行ったものとしての意義がある.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O3027-A3O3027, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567319552
  • NII論文ID
    130004581740
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o3027.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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