前腕の回内外と手関節の掌背屈運動との関連性について

説明

【目的】<BR>前腕や手は,物を手で扱うことが多いヒトにおいて,日常生活動作に一次的に関与していると言える.そのため,手関節,肘関節の疾病による関節可動域制限は,日常生活動作に直結的に支障を来すことが多くなり,臨床上,程度の差こそあれ度々診る機会がある.そのような症例において,手関節の可動域制限は,前腕,手の代償運動によって,動作を補償している例を見受ける事は多い.<BR>前腕回内外と手関節掌背屈の関連性について,動作時の筋活動や,X線や画像解析を用いて検証している先行研究はある.しかしながら,前腕や手の動きを,連続した三次元上における6自由度で検証している報告は少ない.<BR>本報告は,前腕と手の姿勢変化について,3次元動作解析装置を用いて,6自由度で計測した.この2つの体節の姿勢変化の関連性について,前腕回内外,手関節掌背屈に絞って明らかにする事を目的とした.<BR><BR>【方法】<BR>対象は,前腕及び手関節に既往がなく,本実験の目的及び内容に同意が得られた健常成人8名(23.6±1.3歳)であった.対象の利き手は全員右手であった.<BR>計測機器は,モーションキャプチャーシステムVICON(VICON-MX:Vicon Motion System社製,カメラ7台)を用い,サンプリング周波数200Hzで計測した.<BR>計測する体節は,左右の上腕,前腕,手とした.マーカ位置は,各体節の上腕(肩峰,上腕骨内側上顆,外側上顆),前腕(橈骨茎状突起,尺骨茎状突起,遠位橈尺関節背側部),手(母指MP関節,第2指MP関節,第4指MP関節)の計18点とした.<BR>上腕,前腕,手の体節における座標系は各体節内のマーカ3点の位置で決定した.<BR>計測肢位は,仰臥位にて,肘関節90度屈曲位で,前腕回内外運動を行った.その後,前腕回内外中間位,最大回内位,最大回外位の各3肢位で,手関節掌屈,背屈運動を施行した.<BR>計測時,手指の関節は肢位によって骨の配列が大きく異なる為,各運動の際には皮膚によるマーカのズレや骨のズレを最小限にする為,野球の軟式ボールを把持させた状態で行った.<BR>計測結果は,BodyBuilder(Vicon Motion System社製)を用いて,前腕の回内外角度と,前腕の各肢位における手関節の掌背屈角度を算出した.<BR><BR>【説明と同意】<BR>実験手順と方法は,所属施設における倫理委員会の許可を得た.被験者には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭および文書にて説明した.同意が得られた者のみを対象に計測を行った.<BR><BR>【結果】<BR>前腕の回内位では,手関節背屈:52.5±13.5度,掌屈:77.3±12.0度となり,掌屈の方が明らかに大きいと言えた.また,手関節の掌屈角度は,前腕回外位49.7±13.6度に比して,回外位でより大きい77.3±12.0度となった.<BR>前腕の回外位における手関節掌屈と背屈角度の関係や,前腕回内外各肢位における手関節背屈角度との関係については,明らかな傾向は認められなかった.<BR>また,利き手と非利き手間でも明らかな傾向はなく,前腕の回内外の関節角度と,手関節の掌背屈角度間での関係も認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR>浜田らは,遠位橈尺関節障害による前腕回旋制限はさまざまな日常生活動作に重大な障害をもたらす為,その改善は上肢機能の回復のため重要であるとしている1) .<BR>また,中村らは,洗顔動作時における肩,肘関節の肢位と前腕回外制限の程度との関係性を検討し,前腕の回外運動は肩関節の内転と密接な関係があると報告している2).<BR>今回の結果からは,手関節の掌屈可動域と前腕の回内動作との関係性と,前腕の肢位の違いにおける手関節掌屈角度の柔軟性が大きく異なることが明らかとなった.上肢全体の機能を把握していくためには,前腕のみならず,手関節にも着目し,その柔軟性を考える際には前腕の肢位を考慮した上で,日常生活動作や上肢機能の評価を行う必要があることが示唆された.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>臨床においても度々経験する前腕や,手関節の症例に対して,それぞれの運動学的関連性を理解する事は,各部位の機能障害を把握する上では必須である.本研究がその理解の一助となり得ると考える.<BR><BR>【参考文献】<BR>1)浜田良機,戸島忠人 他:手関節部可動域制限による機能障害について.日本手の外科学会誌 9:618-622,1992.<BR>2)中村祐敬,杉山 肇 他:前腕回旋制限に伴う上肢の可動域変化の検討.日本臨床バイオメカニクス学会誌 28:125-130,2007.

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O3021-A3O3021, 2010

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567329152
  • NII論文ID
    130004581734
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o3021.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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