ラット横隔膜筋組成に左右差、部位差はあるのか?

Description

【目的】吸気運動の主動作筋である横隔膜は胸腔と腹腔を境する1枚の膜状の横紋筋であり、呼吸運動における最も重要な筋である。また、横隔膜はその付着部位により胸骨部、肋骨部、腰椎部に分けられる。最も大きく横隔膜の総容積の70%を占めるのが肋骨部で、背側部で腰椎に入り込んで厚みのある部分が腰椎部である。ガス交換を行う肺葉は心臓の位置関係により左が2葉、右が3葉という形態的な違いがある。このように横隔膜においても左右差もしくは部位による違いがあるのではないかという仮説のもと本研究を実施した。本研究はラット横隔膜に対して呼吸時における筋電図解析を行った後、両側横隔膜を摘出し左右による筋組成の違い、また部位による違いをミオシン重鎖アイソフォーム構成比から分析した。<BR><BR>【方法】生後10週齡のWistar系雄性ラット10匹を用いた。各ラットをエーテル麻酔下にて体重を測定後、更にネンブタール(50mg/kg)で麻酔し、実験に供された。開腹後、呼吸に伴う左右の横隔膜EMGを計測した。筋電信号は横隔膜肋骨部中央に埋め込んだ直径0.05mmのワイヤー電極により双極性に誘導し、20-2kHzのバンドパスフィルターを通し、生体アンプで増幅後、パーソナルコンピューターにて記録した。記録した筋電図波形において無作為に10呼吸を選択し、横隔膜筋活動の時間的割合(Duty time)および高速フーリエ変換(FFT)により平均周波数を算出した。<BR>その後横隔膜を摘出し、胸骨部、肋骨部腹側、肋骨部中央外側、肋骨部中央内側、肋骨部背側、腰椎部の6部位、左右あわせて12部位に分割し、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法によりMyosin Heavy Chainアイソフォームを分離し、MHC1、MHC2a、MHC2d、MHC2bの構成比を求めた。<BR><BR>【説明と同意】本実験は畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て、畿央大学動物実験管理規定に従い実験を行った(承認番号20-2-I-200812)。<BR><BR>【結果】安静麻酔下での横隔膜筋活動のDuty timeは38.6±5.3%で、1呼吸あたりの時間的割合は約40%であった。また、左右横隔膜筋活動の時間的割合に有意な差は認められなかった。FFT解析では、吸気時横隔膜筋活動の平均周波数は左横隔膜で102.2±53.5Hz、右横隔膜で127.4±50.2Hzであり、個体間でのばらつきが大きく有意な差は認められなかった。横隔膜筋線維におけるミオシン重鎖アイソフォーム構成比では左横隔膜でMHC1が17.3%、MHC2aが16.4%、MHC2dが50.7%、MHC2bが17.3%であった。右横隔膜ではMHC1が16.4%、MHC2aが18.3%、MHC2dが55.4%、MHC2bが16.4%であり。左右による統計学的有意差は認められなかった。横隔膜の部位差では胸骨部において肋骨部と比較してMHC2bが有意に低く、MHC1の比率が有意に高いことが認められた。また肋骨部において肋骨中央外側部は肋骨部背側や腰椎部と比較してMHC2bの比率が有意に高かった。<BR><BR>【考察】横隔膜は呼吸活動の吸気筋として生命維持のために24時間、収縮-弛緩を繰り返している。先行研究においてネコの下肢筋におけるduty time(活動時間/総時間)は長趾伸筋で約2%、ヒラメ筋で15%と報告されている。本実験結果において横隔膜は吸息時に常時活動しているため、そのduty timeは約40%であった。これはその筋に要求される機能によって大きく異なるためと思われる。また、周波数解析では100Hz 以上の高周波数領域の活動が大きく、疲労しにくい遅筋線維以外に瞬発性活動に関係する速筋線維が活動していることが考えられた。ミオシン重鎖アイソフォーム構成比では横隔膜筋線維組成に左右差は認められなかったが、部位による差では胸骨部では遅筋線維の比率が高いということ、また肋骨部では速筋線維の比率が高いことが認められ、部位による筋線維組成に差が認められた。これは横隔膜での異なる部位で異なる機能的役割が存在する可能性が示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法において開胸・開腹術前後の呼吸理学療法、慢性閉塞性呼吸器疾患の在宅酸素療法や運動療法、スポーツに対する運動生理学的な呼吸循環応答など呼吸に対して多岐にわたり関与している。本研究は呼吸の主動作筋である横隔膜に関して基礎的な知見を与えるものであると考える。呼吸における横隔膜の貢献度は大きく、その横隔膜に対して機能的、構造的知見を把握することは今後呼吸理学療法における横隔膜へのアプローチについて考察する際の一助となると考える。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567352192
  • NII Article ID
    130004581756
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a4p1007.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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