高齢者における転倒予防を目的とした座位バランス評価システムの使用経験
説明
【はじめに】<BR>高齢者における転倒は、生活機能の自立を低下、心理的な側面に対する影響、さまざまな健康障害を引き起こすといわれている。本邦では年間転倒事故は約10~20%に発生し、約10%が骨折に至る。転倒リスクを評価するために平衡機能検査として重心動揺検査機器を用いることがある。これは被験者が重心動揺計に直立し、静的直立時の身体動揺を測定するものでバランス能力を定量的に評価できる。しかし、立位バランスは足関節でコントロールされるため、体幹バランスの評価には厳密性が欠ける。今回、高齢者における体幹の姿勢コントロールを評価するために、座位でバランスを測定し、若年者と比較した。<BR>【対象および方法】<BR> 対象は独歩が可能な70歳以上の高齢女性15例(平均80歳)(以下O群)で、手術や転倒の既往が無い者とし、コントロール群はボランティアとして参加した健康成人11例(平均21歳)(以下Y群)とした。座位バランス計測装置は、6軸プラットフォームを採用したもので様々な条件下で計測が可能で、動的な評価も可能である。計測システムとして重心動揺計以外に3個の三次元位置センサー、トランスミッタ、レシーバを用いた。被験者は胸部前面で腕組み、下肢を床から浮かし、前方注視させ、頭部の位置を一定にするように支持した。この座位姿勢に対し坐面を左右に反復的に30秒間傾斜させた。傾斜角度は最大5°、周波数は0.25Hz、0.5Hz、計測時間は25秒とした。評価項目は、圧力中心点(COP)の単位時間軌跡長、単位面積軌跡長、二乗平均、および胸椎、腰椎のモーメントとし、統計学的に危険率5%未満を有意であるとした。<BR>【結果】<BR>COPの軌跡を比較すると、Y群よりもO群で軌跡の乱れが大きく、周波数増加による影響が大きいことが観察された。単位軌跡長はO群で有意に大きく、単位面積軌跡長はY群で有意に大きかった。二乗平均値はOで有意に大きかった。水平方向の変位を各レベルで比較すると、第7頚椎および頭頂においてO群で有意に大きかった。脊椎まわりのトルクは第5腰椎と第12胸椎に発生した最大トルクで比較した結果、O群のほうが最大トルクの平均値が大きかった。傾斜周波数の違いによる平均値の差の検定結果は両群間で相違はなかった。<BR>【考察】<BR> 今回の結果から高齢者では重心移動が速く、固有受容器の微細な姿勢制御機能が劣り、COPの乱れが大きく、傾斜に対し姿勢を保持できず、座面の動きに体が振られていたことが推定される。さらに傾斜周波数の違いによる結果に相違がなかったことから、高齢者の座位バランスを測定する際には0.25Hzを用いた方がより安全であると考えられる。<BR>【結語】<BR> 座位で安全に行えるバランス能力測定装置を用いて高齢者のバランス能力を評価した。従来のCOP軌跡のみによる評価に加え身体運動を考慮したバランス能力評価が可能であった。
収録刊行物
-
- 理学療法学Supplement
-
理学療法学Supplement 2006 (0), C0266-C0266, 2007
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
- Tweet
詳細情報 詳細情報について
-
- CRID
- 1390001205567536000
-
- NII論文ID
- 130005013904
-
- 本文言語コード
- ja
-
- データソース種別
-
- JaLC
- CiNii Articles
-
- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可