肢位の違いによる肩甲下筋の機能について

  • 多田 裕一
    医療法人社団慶優会増本整形外科クリニック

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説明

【目的】肩関節の動的安定化機構として回旋腱板がある。その中でも、肩甲下筋は肩関節の前方の安定性に大きく関与していると言われている。臨床場面において前方の不安定性を示す症例を多く経験する。今回、肩甲下筋の働きやすい運動、動作肢位に注目し、検討したので以下に報告する。<BR>【方法】対象は運動時に肩関節に痛みを感じる外来患者11 名(男性9 名、女性2 名、平均年齢17.0±8.4 歳)で、Active compression test(以下ACT)とspeed testの両方において陽性を示す者とした。このうち、患者の行っているスポーツは、野球が8 名、軟式テニス、ソフトボール、チアリーディングが各1 名ずつであった。患者は肩甲胸郭関節、肩鎖関節などの治療をしていない者とした。評価方法は、ACTでの痛みをVisual Analog Scale変法(以下VAS)を用いた。方法は、最初に肩関節内旋運動を未実施の状態で評価した。その後、黄色チューブを用いて肩関節内旋10~15°を20 回実施する運動を、肩関節1st positionで内外旋中間位から(課題1)と外旋位15°から(課題2)にて行った。順番は肩関節内旋運動未実施、課題1、課題2の順で各課題終了につき、ACTを実施し、痛みを評価した。なお、t検定を用いて危険率1 %をもって有意とした。<BR>【結果】ACTでの痛みは、VASを用いて運動未実施では平均6.6±2.0、課題1では平均5.8±2.0、課題2では平均4.0±2.2となり、運動未実施と課題2、課題1と課題2において疼痛軽減が有意であった。<BR>【考察】今回の実験により、課題2が課題1より肩関節前方の安定性を向上させることに有効と考えた。肩甲下筋上部繊維は下部繊維より肩関節前方の動的安定化機構としての役割が強い。また、肩関節外転に伴い下部繊維の張力が増加することで下部繊維が働きやすくなる状況を作ってしまう。これを踏まえ、上部繊維が働きやすい肩関節下垂位での肩関節内旋運動によって肩関節前方の安定性が向上したと考えた。また、外旋筋である棘下筋、小円筋が相反抑制され、肩甲下筋との張力のバランスが整ったのではないかと考えた。そして、エクササイズを実施している様子では、課題1では上腕骨頭が前方偏位し易かったが、課題2では上腕骨頭が前方偏位し難かった。このため、課題2実施後に前方の安定性が増加したことも考えた。

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), C0122-C0122, 2008

    日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)

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