肩甲胸郭関節における体表運動計測

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  • 肩外転運動時の肩甲骨の変位について

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【目的】我々は,肩関節外転時の肩甲胸郭関節における運動を単純X線にて計測し,運動学的に分析を行った(生体医工学シンポジウム2005)。しかし,被爆してしまうことや肢位によって画像が不鮮明であることなどの問題がみられた。そこで,健常成人男性7名を対象として超音波動作解析装置を用いた運動解析を行い,第44回日本理学療法学術大会にて発表した。今回の研究では,肩関節外転時の肩甲胸郭関節の運動および立位姿勢の変化を計測し検討を加えたので報告する。<BR>【方法】対象は健常成人女性8名で,平均年齢は20.6±1.18歳であった。計測には超音波動作解析システム(zebris社製CMS-20S)を用いた。両側の肩峰および上後腸骨棘,肩甲棘三角,肩甲骨下角,上腕骨長軸上の近位・遠位点を順次触診した後に,ポインターにてマーキングした。肩甲骨の運動は,前額面で肩峰と肩甲棘三角を結んだ線から上方回旋角,水平面で肩甲棘三角と肩甲骨下角を結んだ線から後傾角を算出した。この角度算出には,第7頸椎と第3正中仙骨稜を結んだ前額・矢状面上の線を基準線とした。また,第7頸椎から仙骨に至る棘突起あるいは正中仙骨稜をマーキングし,胸椎・腰椎の彎曲角度を算出した。さらには,第7頸椎と第5腰椎の棘突起を結んだ直線が第7頸椎棘突起からの垂線となす角度から側方傾斜角を,両肩峰の高位から左右差を求めた。<BR>課題は立位における利き腕の肩関節外転運動とし,肘関節を伸展位,手関節・手指を軽度屈曲位に保持させた(全員が右利き)。測定条件は自重のみを負荷とした運動(負荷なし)と,前腕遠位部に1kg重錘を巻いての運動(1kg負荷)として,0,45,90°でそれぞれ静止させた。肩甲骨の角度は負荷なし外転0°の数値をもとに算出し,外転45,90°の比較を対応のあるt検定にて行った(有意水準5%)。また,胸椎後彎角,腰椎前彎角,側方傾斜角および肩峰高位差の群間比較はフリードマン検定にて行った(有意水準5%)。<BR>【説明と同意】厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で計測を行った。<BR>【結果】肩甲骨の平均角度を肩関節外転角45°,90°の順に記す。上方回旋角は負荷なしで5.4→19.8,1kg負荷で2.5→19.9と有意に増加していた。胸椎後彎角と腰椎前彎角については,肩関節外転角0,45,90°でいずれも変化がみられなかった。しかし,側方傾斜角は負荷なしで1.5→3.2→4.0,1kg負荷で1.5→3.5→4.6と有意に増加していた(左側への傾斜)。また肩峰高位差についても,負荷なしで4.3→21.2→42.6,1kg負荷で2.9→24.1→50.7と右側が有意に高くなっていた。<BR>【考察】今回の研究では対象は健常成人女性に限定し,肩甲胸郭関節における運動解析を行うのみならず,体幹への運動の影響を評価した。我々の行った健常成人男性を対象とした先行研究と同様,肩関節外転運動に伴い上方回旋角と後傾角が増加していた。この運動に伴う脊柱の代償運動を評価する目的で,今回使用した計測機器における姿勢パラメータから胸椎後彎角,腰椎前彎角,側方傾斜角を求めた。課題が矢状面での肩関節外転運動であったため,同一面上での胸・腰椎の彎曲には変化がみらなかった。しかし,側方傾斜角と肩峰高位差が増加していたことから,右肩関節を外転位で保持するために上部体幹を左側にわずかながら変位させていたことになる。外転角度が増加することで肩関節に作用する外的モーメントが大きくなるため,その変化に対応した姿勢制御を行ったものと考えられる。今回の計測では既存の姿勢パラメータを用いたが,今後はより詳細な計測を行うことが必要と思われた。<BR>体表から測定することが確認できた。上肢挙上運動に伴い上方回旋角と後傾角が増加することは,先行研究に一致した結果であった。上方回旋角に関しては全員が上肢外転角に伴い増加していたが,後傾角については45°に比して90°で角度の減少ものも存在した。また水平面での運動については,上肢挙上運動に伴い内旋角がわずかながら増加するとの報告があるが,今回の結果では一定の傾向が示されなかった。つまり,肩外転時の上腕骨-肩甲骨の運動を一つのパターンに集約して論ずることには限界があり,体格や測定条件による差異を考慮した計測が必要と思われる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>肩甲骨の運動は非常に複雑で体表からの計測が困難である。この計測手法では静的ではあるものの,肩甲骨の運動分析を行うことができる。これらの結果は,理学療法評価および治療の基礎情報となりえる。<BR>

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567737344
  • NII Article ID
    130004581653
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o2024.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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