健常者の開蓋動作に対するメンタルプラクティスの筋力増強効果
書誌事項
- タイトル別名
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- 無作為化比較研究
抄録
【目的】<BR>メンタルプラクティス(Mental Practice:MP)とは,運動の実施なしに課題を認知的にリハーサルする訓練であり,身体パフォーマスを向上させるという臨床的根拠が報告されている.先行研究の多くは,運動スキルや身体パフォーマンスをMPの効果判定の対象としている.一方,Yueら(1992)は筋力増強という観点からMPの効果を調査し,MPのみでも筋力増強が起こることを報告している.彼らのようにMPの筋力増強効果を調べた研究は散在するが,その多くは単関節運動であり目的指向型運動ではない.今回は,健常者を対象とし非利き手の開蓋動作に対するMPの筋力増強効果を明らかにすることを目的とした.<BR>【方法】<BR>右利きの健常者31名(平均年齢22.9±5.45歳,エディンバラ利き手テスト0.83±0.13)を対象とし,参加条件は左手に整形疾患がない者とした.グループは,メンタルプラクティス(MP)群9名,身体練習(PP)群12名,コントロール(CON)群10名で,無作為に割り付けを行った.MP群はSidawayら(2005)の方法に従い安静座位・閉眼にて心的に左手の開蓋動作を実行した.PP群はPRIMS RS(BTE Technologies社)とアタッチメント302を使用し,最大努力にて左手の開蓋動作を行った.介入は共に20回/日とし,週3回,4週間実施した.測定は介入前後に行い,評価項目は開蓋動作時の最大トルク体重比,握力,ピンチ力とした.筋力測定には,PRIMS RSを使用した.椅座位で等尺性開蓋動作時トルクを3回測定し,最大値を体重で除した値を最大トルク体重比とした.握力はデジタル握力計GRIP-D(竹井機器工業株式会社)を使用し,ピンチメーター(不二精工株式会社)を用いてピンチ力を測定した.また,介入後の各項目について,介入前の値で除することで変化率を求め標準化した.分析は,群間比較では一元配置分散分析と多重比較を,群内比較では対応のあるt検定を実施し,有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】<BR>参加者全員に口頭および紙面で研究内容を説明し,同意を得た.<BR>【結果】<BR>介入前は,全項目で3群間に有意差はなかった.介入後の最大トルク変化率はPP群で25.56±28.70%,MP群で10.95±8.58%,CON群で-0.84±17.26%であり,PP群とCON群に有意な差が認められた(P=.0085)が,MP群とPP群に有意差はなかった(P=.168).介入後において,最大トルク体重比はMP群とPP群で有意な増加(P=.019,P=.002)を示したが,握力,ピンチ力には有意な変化はなかった.<BR>【考察】<BR>群内比較において,MP群の最大トルク体重比が介入後に有意な増加を示した.これは,身体運動を伴わないMPのみでも筋力が増加することを示唆している.また,介入後において,PP群とMP群は握力やピンチ力に変化がなかった.PP群と同様に,MPによる筋力増強効果も,心的実行した課題に対して特異的に作用する可能性を示した.しかし,本研究では介入後のMP群の最大トルク変化率において,CON群と比較して有意な増加が認められず,先行研究と異なる結果となった.この理由としては,非利き手であったとしても開蓋動作は日常生活でよく実施する運動であるため,MPのみでは筋力増強効果が小さくなったと推察できる.Ranganathanら(2004)も,日常生活において実施頻度の高い動作はMPによる筋力増強効果は少ないと報告しており,今後は,より効果的なMPの適応を検討していく必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>MPは,特別な機器を必要とせず,環境的制限を受けにくい.よって,MPによる筋力増強効果は,医学的管理のため身体運動が制限された環境下において有益である可能性が考えられる.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2009 (0), A3O1037-A3O1037, 2010
公益社団法人 日本理学療法士協会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205567778944
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- NII論文ID
- 130004581618
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可