足趾屈曲力と重心動揺,重心移動域の関連性について

DOI
  • 田中 勇治
    植草学園大学保健医療学部理学療法学科
  • 田中 まり子
    日本大学大学院理工学研究科医療・福祉工学専攻
  • 宮坂 智哉
    植草学園大学保健医療学部理学療法学科
  • 青木 和夫
    日本大学大学院理工学研究科医療・福祉工学専攻
  • 堀内 邦雄
    工学院大学グローバルエンジニアリング学部機械創造工学科

抄録

【目的】足趾屈曲力については,下肢運動機能および立位姿勢調節に関連が深い,あるいはその強化が高齢者の転倒予防に効果があるなどの報告がなされているが,定量的な検討は少ない.多くの報告では,市販の測定器がないため,各研究者がSmedley式の握力計を改良したものを使用している.本研究は,測定が簡便であること,定量的な測定が可能であること,また,足趾で床面を押す力を測定するという観点から堀内,青木らが考案したpushタイプ足趾屈曲力計を用いて足趾屈曲力の測定を行い,重心動揺,重心移動域および年齢等との関連を検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は,健康成人40名,平均年齢45.3±17.2歳,(女性15名;平均年齢46.13±14.6歳,男性25名;平均年齢44.8±18.9歳)であった.測定項目は以下の通りである.1.足趾屈曲力:堀内らの開発したPush タイプ足趾屈曲力計を使用し,足底を床に着けた状態で足趾を屈曲してその押す力を測定した.坐位および立位でそれぞれ左右各2回測定し,4施行の平均値を代表値とした.2.重心動揺および重心移動域の測定:参加者の足底内側を平行に10cm 離した軽度開脚立位とし,支持基底面の中央および支持基底面内で重心を随意移動して前方,後方,右方,左方の5つの重心動揺を10 秒ずつ測定した.測定装置には,重心動揺計(アニマ社製,グラビコーダGS-10)を使用した.この測定により得られた値から以下の項目を検討した.(1)重心動揺軌跡長(以下,軌跡長):中央,前方,後方,右方および左方での値,これらの平均値,および中央値に対する各位置の値の比.(2)重心動揺矩形面積(以下,矩形面積):中央,前方,後方,右方および左方での値,これらの平均値,および中央値に対する各位置の値の比.(3)重心移動域:前方,後方,右方,左方,前後方向および左右方向の重心移動域の値.(4)安定域面積:前後重心移動域と左右重心移動域の積.(5)姿勢安定度評価指標(Index of Postural Stability,以下IPS):望月の考案した算出式に従い,安定域面積,および重心の揺らぎである重心動揺の面積から求めた.3.Functional Reach(以下FR):モルテン社製マルチスケールを用いて3回測定し,最大値を代表値とした.4.握力:スメドレー式握力計を使用し,左右各2回測定し,4施行の平均値を代表値とした.5.以下の項目について自記方式で調査した.(1)年齢,(2)性,(3)身長,(4)体重,(5)足長.足趾屈曲力と各値の関係についてPearsonの積率相関係数を算出し検討した.有意水準は5%未満とした.<BR>【説明と同意】参加者は,大学職員および学生で,事前に測定に関する説明を行い,参加意志決定後であっても辞退することが可能であることを伝えた上で参加の同意を得た.なお,実施にあたって植草学園大学研究倫理委員会において研究の承認を受けた.<BR>【結果】足趾屈曲力について,身長,体重,足長および握力との間に正の相関を認めたが,年齢との相関は認められなかった.軌跡長および矩形面積では,足趾屈曲力との間に有意な相関を認めなかったが,[前方での軌跡長/中央での軌跡長]と足趾屈曲力(坐位)との間に正の相関を認めた.重心移動域と足趾屈曲力(坐位)については,後方,右方,前後および,左右で,また安定域と足趾屈曲力(坐位)の間に正の相関を認めた.重心移動域と足趾屈曲力(立位)においてもほぼ同様の傾向を認めた.また,FRと足趾屈曲力(坐位),足趾屈曲力(立位)間において正の相関を認めた.<BR>【考察】重心動揺と足趾屈曲力の間には,相関がなく,安定した静止立位での足趾屈曲力の作用は少ないと考えられた.支持基底面内で重心を移動すると外周付近で重心動揺が大きくなるとの報告があり,軌跡長について,[前方での軌跡長/中央での軌跡長]と足趾屈曲力(坐位)との間に正の相関を認めたことから,足趾屈曲力が大きいとより大きな前方移動を可能にすることが考えられる.<BR> 重心移動域は,各方向で足趾屈曲力と正の相関があり,またFRとの間にも正の相関を認めたことから,大きな重心移動には足趾屈曲力が関係していることが推察された.<BR>【理学療法学研究としての意義】現在,高齢者の転倒予防として種々の運動療法が考案され施行されており,足趾の運動を取り入れたものがある.足趾屈曲力が強いと大きな重心移動が可能であることを示す本研究は,足趾屈曲力の強化がバランスの改善に有効であることを示す根拠になると考えられる.また,本研究で使用したpushタイプ足趾屈曲力計は測定が簡便で,定量的測定が可能であり,足趾屈曲力の客観的で定量的評価を行う上で有効であった.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2009 (0), A3O1001-A3O1001, 2010

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205567806080
  • NII論文ID
    130004581582
  • DOI
    10.14900/cjpt.2009.0.a3o1001.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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