重度な下肢の拘縮を有する維持期高齢者の理学療法の有用性
説明
【目的】療養病床においては長期臥床により異常に筋緊張が亢進し重度な関節拘縮を呈している高齢患者が多く、ケア場面で難渋することが多い.従来、これらの患者は理学療法の対象とされていないことが多い.日々の業務の中で維持期の患者に対し理学療法を実施することにより筋緊張や関節可動域の改善がみられ、ケアが行いやすくなっていることをよく経験している.今回、重度な下肢の拘縮によりオムツ交換の介助が困難な事例に対して理学療法を実施し、有効な改善がみられたので報告する.<BR><BR>【対象・方法】重度な下肢の拘縮を有する13名(男性9名、女性4名)を対象とした.年齢は79.7±12.1歳、で、全てベッド上生活が中心の事例とした.臥床期間は47±27ヶ月であった. 理学療法実施期間は2008年4月から9月までのうち3ヶ月間とした.評価は、股関節・膝関節の関節可動域、及び大転子から外果間の距離、開排距離、ならびに筋緊張として5段階のAshwarth Scaleにより検査・測定した.運動療法としては、局所へのアプローチならびに寝返り・起き上がり・座位などの姿勢動作へのアプローチも合わせて週5日実施した.分析は関節可動域と距離の初期と3ヵ月後の平均値をT検定にて比較検討した.また、可動域制限の程度を重度・中等度・軽度の3つに分類し、筋緊張との関係をスピアマンの相関を用いて検討した.なお、対象者およびその御家族には研究目的を説明し、同意を得て協力して頂いた.<BR><BR>【結果】今回、検査・測定した全ての項目において改善がみられたが、特に股関節外転の関節可動域(初期平均6.5度、3ヵ月後平均19.2度)において有意(p<0.005)な差がみられた.また、股関節外転制限の程度が初期評価時に重度な拘縮を有した症例は13名中9名(69%)であったが、3ヶ月後には9名のうち8名(89%)に改善が認められた.さらにこれらの症例の股関節外転方向(内転筋群)の筋緊張においても変化が認められ、関節可動域と筋緊張の間に高い相関(rs=0.91、p<0.01)がみられた.<BR><BR>【考察】今回の結果から、長期臥床により異常に筋緊張が亢進し重度な関節拘縮を呈している高齢患者においても、理学療法を実施することで改善が認められた.特に拘縮が重度なほど改善が高く、オムツ交換時のケアに有用であった.また、今回実施した安全、安楽を配慮した寝返り・起き上がり・座位などの姿勢動作へのアプローチにより、姿勢保持に働く深部の短関節筋への筋緊張の改善には有効であったと考える.維持期における高齢者の重度な拘縮に対する予防は重要であるとともに、患者の苦痛ならびに介護する家族や他の職種がより良いケアを継続するためにも今後も取り組みを続けていきたい.
収録刊行物
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- 理学療法学Supplement
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理学療法学Supplement 2008 (0), C3P3350-C3P3350, 2009
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205567875968
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- NII論文ID
- 130004580893
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可